先日、昨年の甲子園で準優勝に輝いた三重高校を率いる中村監督の講演をお聴きしました。
「チャンスはいつ来るか分からない。いつでもそのために最高の準備を」。
中村監督が、講演で最初に口にした言葉です。
輝かしい結果を出したら、世間から評価される。そんなチャンスが来ると思うから、ガムシャラに頑張れる。だから、毎日努力を重ねる。
でも、そうではないと監督はいう。チャンスはいつ来るか分からない。だからこそ、いつでもそのための「最高の準備」をと。
「最高の準備」が、「そのとき」を引き寄せることができるという発想。まさに人の上に立つ人に必要な資質かもしれません。
それでも人をひとつにまとめ上げて強いチームをつくるのは、なかなか容易にできることではありません。
「人には相性があり、苦手な相手もいる。でも苦手と思った瞬間、相手も心を閉ざす。常に胸襟を開く勇気が大事」。
こんな強い意思をもって人と相対するからこそ、心底からの信頼関係が醸成され、本物の輪ができていくのでしょう。
だから、監督は100人以上いる部員全員と必ず個人面談し、普段から名前を呼んで声をかけるそうです。
「選手(部下)との会話は相手の発言で終わるようにする。そうすると必ず今度は自分から声を掛けてくる」。
監督と選手は絶対に100対0の関係になってはいけないというポリシーからの思いです。
大抵の上司は部下と対話するとき、自分の発言で会話を終わります。このこと自体が、そもそも力で相手を制していることの証し。
人間には自己重要感がありますから、自分の言葉を聴いてもらっている、自分のことを受け入れてもらっていると思うと、自ら心を開くものです。
そして、「成長する人間は必ず質問がある」といいます。
これに全力で応えるのが、上に立つ人間の役割。
本当の意味でチームを率いる上司に求められる役割だといえるでしょう。
監督の「勝てるチーム」への考え方にも、とても共鳴しました。
「打ちたがる野手に打撃練習はさせない。ひたすら守備練習をさせる。打撃は1人でできるが、守備は1人でできない。守備力がチームの輪をつくる」。
会社でもそうですが、勝利が欲しいチームはとにかく目の前の点を稼ぐことばかりに目がいきがちです。
でも、そんな態度が必ずしも今後のチーム力の強化に結びつくとはかぎらないことは、マネジメントに関わる方なら常識でしょう。
野球は守りからといいますが、これは経営でも同じです。
「野手のひたむきな守備練習が強いピッチャーを育てる」。
これが、「勝てるチーム」づくりに向けた理想なのかもしれません。
「すごい選手でなくても1つでも光るものがあったら抜擢する。その資質を見抜き育てるのが監督の仕事」。
だから、監督は1番うまい選手ではなく2番手、3番手の選手を使いましたが、彼らはみごとに期待に応えてくれたといいます。
エースと4番だけでは強いチームはつくれないといいますが、それではどうしたらいいのか?を迷いなく実践できる人は真のリーダーですね。
うまい選手、強いチームが勝つわけではなく、人を活かすチーム、技術を超えた人間性が勝ちを導くというのが、世の中の真実です。
「選手の目標は甲子園。監督の目標は選手の幸せ」。
最後に語られた監督の言葉。しっかりと心に落ちました。
肝に銘じていきたいものです。