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ナデック通信

2023年
11月号

「年収の壁・支援強化パッケージ」について

先月号では、「年収の壁」への対応の最新情報とポイントについて触れました。その後、「年収の壁・支援強化パッケージ」について続々と具体的な内容が発表されていますので、今月号では、社会保険適用促進手当、事業主の証明による被扶養者認定、キャリアアップ助成金・社会保険適用時処遇改善コースについて整理したいと思います。

(1)社会保険適用促進手当

短時間労働者が社会保険に加入すると保険料負担によって手取り収入が減少する「逆転現象」が起こるため、それを補填する趣旨の手当を支給し、本人負担分の保険料を上限に社会保険の算定から除外する措置として、「社会保険適用促進手当」が創設されました(最大2年間の時限措置)。

例として、年収106万円(標準報酬月額8.8万円)の人が、新たに被保険者になって社会保険適用促進手当が支給されたケース(試算)(概算)を以下に示します。

①年収106万円(標準報酬月額8.8万円)
 ↓
16万円の保険料が発生
 ↓
手取り90万円(逆転現象)

②16万円の手当を支給
 ↓
保険料が18万円に引き上がる
 ↓
手取り収入103万円(逆転現象解消せず)

③16万円の「社会保険適用促進手当」を支給
 ↓
保険料の算定対象とならない
 ↓
手取り106万円(逆転現象解消)

社会保険適用促進手当を支給するかどうかは事業主の判断に委ねられ、社会保険料の加入のタイミングから遅れて支給したり、数か月分をまとめて支給することも認められますが、「年収の壁」への労働者の関心は高いことから、現実的には何らかの対応を検討することが求められるといえるでしょう。

企業をめぐるパート採用事情は厳しい情勢になりつつあるため、手当の支給を渋ることで適正な採用ができなくなったり、現場のモチベーションが下がってしまうことを避ける意味でも、助成金を活用しつつ積極的な対策を講じるケースが一般的だと考えられます。

なお、社会保険適用促進手当を支給する場合は、賃金(手当)の変更(創設)として就業規則(賃金規程)に規定した上で、常時10人以上の事業所は所轄の労基署に届け出なければなりません。また、手当が本人負担分の保険料相当額を超える場合は随時改定の対象となることから、超える部分については別の名称の手当として支給することが望ましいです。

(2)事業主の証明による被扶養者認定

「130万円の壁」への対応として、130万円の被扶養者認定基準について、労働時間延長等による一時的な収入変動である旨の事業主の証明を提出することで、保険者による円滑な被扶養者認定がされるルールが新設されました。10月20日に発出された「事業主の証明による被扶養者認定Q&A」で、詳しい内容が整理されています。

「一時的な収入変動」と認められる上限額は明らかにされていませんが、雇用契約書等を踏まえて増収が一時的なものかを判断するとしていることから、事実上は明確な収入要件はないといえるかもしれません。Q&Aでは、「被扶養者が被保険者と同一世帯に属している場合に、被扶養者の年間収入が被保険者の年間収入を上回る場合」「被扶養者が被保険者と同一世帯に属していない場合に、被扶養者の年間収入が被保険者からの援助による収入額を上回る場合」には法令・通知に基づいて被扶養者の認定が取り消されるとされています(1-5)。

「一時的な収入変動」の例としては、事業所の他の従業員の退職や休職による業務量の増加、業務の受注増や事業所全体の業務量の増加、突発的な大口案件による業務量が増加したケースなどが想定されています。労働者の基本給が上がった場合や、恒常的な手当が新設された場合などは、一時的な収入増加とは認められないとされます(A1-8)。通達やリーフレットなどで明示的に「人手不足による労働時間延長等」という表現が用いられていますが、「人手不足による」というという表現に該当しないケースはあまりないと思われ、実際には多くの事業主は該当するのではないかと考えられます。

事業主の証明による被扶養者認定は、10月20日以降の収入確認において適用され、それより前については遡及しない取扱いとされています。令和5年の年間収入が130万円以上となることが見込まれる被扶養者の収入確認において適用される例が多発すると思われるため、事業所としては実務対応を徹底していくことが求められます。

このルールが適用される2年間は、年末になると就業調整をして130万円に収める必要がなくなるため、従来のように多くのパート雇用によって現場対応するモデルから、優秀な人を短時間正社員や正社員に引き上げていくモデルが現実的になっていくと考えられます。

なお、証明書には「本来想定される年間収入」「人手不足により労働時間延長等が行われた期間」「上記期間における収入額(実績)」を記載することになりますが、このうち「期間」については必ずしも年間収入の期間(暦年)とは限らず、あくまで「労働時間延長等が行われた期間」となります。「収入額」との間に齟齬がないよう十分に注意して記載したいものです。

(3)キャリアアップ助成金・社会保険適用時処遇改善コース

「106万円の壁」については社会保険適用促進手当の支給が推奨とともに、キャリアアップ助成金・社会保険適用時処遇改善コースが新設され、一定の取り組みを講じた事業主に対する支援が行われます。短時間労働者が社会保険に加入した際の手取り収入の減少に対応するため、賃上げや所定労働時間の延長などの取り組みを行った場合に最大50万円の助成が行われ、社会保険適用促進手当もこの対象となります。

具体的な活用ケースとしては、以下の例が挙げられます。一事業所あたりの申請人数の上限は撤廃されたため、該当者がいれば何人分でも申請できますが、令和7年3月31日までに事業主が該当する取り組みを行った場合が対象となります。

週20時間、年収106万円(時給1,016円)
 ↓
16万円の社会保険適用促進手当を支給
 ↓
賃金の15%以上を追加支給という要件に該当
 ↓
1年目、2年目はそれぞれ20万円(10万円×2回)支給
 ↓
3年目に時給を1,199円に引き上げた場合は10万円支給
(賃金の18%以上を増額)

3年間で合計50万円が支給されますが、1年目と2年目は助成金で手当額に充てることができるものの、3年目の賃上げは助成金だけでは充てられないため、実際には企業努力による取り組みが不可避となります。「106万円の壁」への対応として社会保険適用促進手当の支給が有効な手だてとなりますが、助成金については全体像としては事業主の負担となる部分が生じるため、助成金がありきで手当を支給するという発想ではなく、パート雇用のキャリアアップや時間延長や正社員化を視野に入れていくことを前向きに検討したいものです。

なお、社会保険適用時処遇改善コースは、令和7年度末までに新たに社会保険に加入したパート等が対象とされ、2年後に予定される次期年金制度改正までの当面の措置として実施されることになっています。2年後には、この助成金が廃止されるだけでなく、社会保険をめぐる扶養制度自体が抜本的に見直される公算が高いため、今後2年間で新たなパート雇用のあり方も含めた体制について各事業所で十分な検討や準備をしていくことが求められるといえるでしょう。