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ナデック通信

2023年
7月号

LGBT理解推進法施行と労務管理

何かと話題が多いLGBT理解推進法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)ですが、6月12日に参議院本会議で可決成立し、同23日に施行されました。まさに国論を二分するような議論が白熱していますが、実際の中小企業の現場にはどのような影響があるのでしょうか。具体的に事業所に関係する条文を取り上げて、分かりやすく解説したいと思います。

1.第1条(目的)

(目的)
第1条 この法律は、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解が必ずしも十分でない現状に鑑み、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の役割等を明らかにするとともに、基本計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性を受け入れる精神を涵養し、もって性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に寛容な社会の実現に資することを目的とする。

今回成立した通称LGBT法は、あくまで「理解増進法」であり、野党提出案だった「差別禁止法」とは異なります。理解増進法は理念法であり、国が基本理念を掲げて啓蒙・推進していくことを目的としており、具体的な差別を禁止する法律ではありません。条文にある「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性」は、LGBTQに限定されず広く国民全体の多様性が想定されているため、事業所への具体的な影響は限定的だと考えられます。

2.第3条(基本理念)

(基本理念)
第3条 性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策は、全ての国民が、その性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならないものであるとの認識の下に、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを旨として行われなければならない。

野党案にあった「差別は許されない」ではなく、「不当な差別はあってはならない」となっているため、あくまで憲法14条(法の下の平等)の理念を再確認する内容となっています。「国民の理解の増進に関する施策」(を講じる国や地方公共団体)が主体とされており、具体的に差別を禁止するような強制力を持つものではないため、この法律を根拠に事業所に対する訴訟が乱発するような事態になることは考えにくいでしょう。

3.第6条(事業主等の努力)

 (事業主等の努力)
第6条 事業主は、基本理念にのっとり、性的指向及び性同一性の多様性に関するその雇用する労働者の理解の増進に関し、普及啓発、就業環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及び性同一性の多様性に関する当該労働者の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする。

事業主の努力義務として、国が掲げる基本理念にしたがって、普及啓発や就業環境の整備、相談の機会の確保などに努めること、国や地方公共団体が実施する施策に協力するよう努めることが規定されています。理念法における努力義務であることからすれば、具体的な条件や程度を示して事業所に課したり、事業所に一定の研修を実施することを求めるような規定ではないといえるでしょう。

4.第10条(知識の着実な普及等)

(知識の着実な普及等)
2 事業主は、その雇用する労働者に対し、性的指向及び性同一性の多様性に関する理解を深めるための情報の提供、研修の実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

「情報の提供、研修の実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備その他の必要な措置」とあり、情報の提供や研修の実施について事業所に自主的な判断と責任における実施が期待されると考えられるでしょう。「この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」(12条)とされていることから、性的少数者だけではなく、すべての国民にとって「寛容な社会の実現」を目指した内容だと理解することができます。

5.新法制定の意義は?

なお、この法律が施行されたことの意味として、あまりメディアが取り上げていないと思われる点があります。それは、今回の法律が事実上、今後地方自治体などが制定する条例や規則などの規範となるという点です。今後施行される政省令も含めて、国の法令に違反する規定を地方自治体が制定することはできないため、結果として全国一律の運用基準へと収斂していくことが想定されます。政省令には根拠法が必要なため、この点は理念法とはいえ新法の存在意義となることでしょう。

事業所における労務管理という視点から、今すぐ根本的な対応変更を求められる点は多くないと考えられますが、ダイバシティ&インクルージョン推進の時流の中で、法律が施行されたことにより権利意識が高まり、時代の機運への影響も想定されるため、従来以上に多様な人材活用に目配せしたきめ細かな労務管理に留意していく必要があるといえるでしょう。