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ナデック通信

2023年
1月号

2023年の労働法改正のゆくえと対応は?

 新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。2023年は約3年のコロナ禍によって「変わったもの」「変わらなかったもの」が、雇用環境においても波及し集約され、次の時代に向けての方向づけがじわじわと明確化されていく一年になると思います。今年も労働・社会保険の専門家として中小企業の現場に寄り添う発信を心掛けつつ、昨今何かと話題になることが多い、ダイバーシティ&インクルージョンやジェンダーをめぐるトピックなどにも触れていきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

 

2023年の法改正の概観

 2023年も前年に引き続き、さまざまな労働・社会保険関係の法改正が予定されています。とりわけインパクトが大きいのは、4月からの中小企業の月60時間超の時間外労働の割増賃金引上げや賃金のデジタル払いの解禁、大企業の育児休業取得状況の公表義務化が挙げられるでしょう。2023年の主な改正点を簡単に整理すると以下のようになります。

2023年1月~

  • 協会けんぽの様式変更

4月~

  • 中小企業の月60時間超の時間外労働の割増賃金引上げ
  • 賃金のデジタル払いの解禁
  • 大企業の育児休業取得状況の公表義務化
  • 職長安全衛生教育の対象業種の拡大
  • 危険有害作業に関する保護措置の対象者の拡大
  • 雇用保険料率の引き上げ

(1)中小企業の月60時間超の時間外労働の割増賃金引上げ

 2010年の労基法改正で1か月60時間を超える時間外労働について割増賃金率が50%以上に引き上げられた際に中小企業への適用は猶予されましたが、2023年4月から猶予措置がなくなり、中小企業についても月60時間超の時間外労働について50%以上の割増賃金の支払いが必要となります。実務的には割増賃金の計算方法を変更する必要があり、月60時間までの部分と60時間超の部分に分けて計算することになるため、新たな割増賃金率へと就業規則(賃金規程)を変更した上で労基者への届出などを行うことになります。

 なお、中小企業に該当するかどうかは、小売業、サービス業、卸売業、その他の業種ごとに、①資本金の額または出資の総額、②常時使用する労働者数の基準で判断されますが、具体的には以下の厚労省のリースレットをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf

(2)賃金のデジタル払いの解禁

 賃金の支払いについては、労基法24条で、①通貨(現金)で、②直接労働者に、③全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日を定めて支払わなければならないと定められていますが、賃金のデジタル払いの解禁は、①通貨払いの原則についての規制緩和です。現行では、例外的な扱いとして、労働者の同意を得た場合に銀行口座への振り込みが認められていますが(労基法施行規則7条の2第1項)、改正で、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む実態に対応するため、一定の要件を満たした場合に資金移動業者の口座への賃金支払(スマートフォンの決済アプリなどへの振込など)を可能とすることとされました。

 実務的には、デジタル払いを適用する場合は、銀行口座などへの給与支払の選択も可能とした上で、労働者に対して給与のデジタル払いについての説明と同意が求められることになるため、十分に注意しなければなりません。

(3)大企業の育児休業取得状況の公表義務化

 育児介護休業法の改正により、2023年4月から育児休業の取得状況の公表が義務付けられる企業の範囲が拡大されます。現行では、厚労大臣から「プラチナくるみん認定」を受けている企業のみが育児休業の取得状況の公表を義務付けられていますが、改正後は「プラチナくるみん認定」の有無にかかわらず、常時雇用する労働者の数が1,000人を超える事業主について毎年1回以上育児休業の取得状況を公表することが義務付けられます(改正育児・介護休業法22条の2)。

 具体的には、①育児休業等の取得割合、②育児休業等と育児目的休暇の取得割合のいずれかを自社のホームページや「両立支援のひろば」(厚労省運営のウェブサイト)などで公開することになるため、該当する企業は社内での実態把握や集計などの準備をすすめる必要があります。

(4)雇用保険料率の引き上げ

 雇用保険料率の引き上げについては、雇用調整助成金の特例措置などにより財源が逼迫していることを受けて、2023年4月から0.2%引き上げて1.55%とされる見込みであり、毎月の賃金から控除される労働者負担は0.5%から0.6%に引き上げとなります。2022年は10月から保険料が引き上げられたことから労働保険の年度更新の際の集計・申告手続きが複雑となりましたが、2023年は保険年度に対応した引き上げとなるものの、2年連続の引き上げにともなう法定福利費の上昇が企業経営にも直結することになります。

(5)協会けんぽの様式変更

 協会けんぽの様式変更は法改正ではありませんが、傷病手当金支給申請書、高額療養費支給申請書、出産手当金支給申請書、出産育児一時金支給申請書、任意継続被保険者資格取得申出書、被保険者証再交付申請書など多岐に渡る様式が一新されますので、実務担当者は的確に対応することが求められます。2023年以降も旧様式を使用することもできますが、新様式で申請(届出)した場合よりも事務処理などに時間を要するケースがある(けんぽ協会Q&A)とされていますので、留意する必要があります。

性別役割から多様性へ向かう「働き方」の変化

 2023年は約3年のコロナ禍に苦しめられた日本がアフターコロナに向かう一年になると思いますが、場所や時間に拘束されない働き方や多様な人材・多様な雇用形態の活用推進によって、より多様性や価値観の違いを認め合い、従来の労働者の枠組みにとどまらない自律的な人材が活躍する時代が近づくように思います。社会保障や税制によって規定づけられてきた「性別役割分業モデル」が、本格的な「ダブルインカム社会」へと変化していく流れも加速していくかもしれません。企業経営の観点からは労務コストの増加や労務リスクの顕在化への対応が迫られることになりますが、それぞれの人が立場を超えて多様性の時代に対応した充実した職業生活を送るための一歩となるよう、課せられた役割の中で全力で取り組んでいきたいものです。