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ナデック通信

2021年
3月号

「正社員登用制度」は大丈夫ですか?

(1)中小企業の「同一労働同一賃金」がスタート

2021年4月から、昨年4月の大企業に続いて、中小企業で「同一労働同一賃金」がスタートします。「同一労働同一賃金」とは、同一企業におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指す仕組みのことをいいます。
年次有給休暇の取得義務や時間外労働の上限規制のテーマがひと段落して、何となく世の中は「働き方改革」への対応が落ち着いたという雰囲気もありますが、中小企業の「同一労働同一賃金」は有給や時間外労働にも匹敵するくらい、会社経営への影響が大きい改正内容です。
大阪医科薬科大学事件では賞与、メトロコマース事件では退職金、日本郵便事件では諸手当と休暇制度が主なテーマとなりましたが、同一労働同一賃金では、正規雇用と非正規雇用とのさまざまな待遇差が争点となり得ます。「ほとんど同じ仕事をしているパートさんに手当がない」とか、「なぜか契約社員には休職制度がない」といったケースなどが、会社が不利となる典型的なパターンです。
中小企業では労働者が訴訟を起こすことはあまりないのではと思うかもしれませんが、同一労働同一賃金には裁判外の紛争解決手続きである行政ADRの仕組みもあり、この場合は労働者が無料で負担感なく自分の主張を会社に提起することが可能となります。
また、社外の個別労働組合(ユニオン)などから、同一労働同一賃金をめぐって団体交渉が申し込まれることもあります。労働組合法では原則として団交申入れを拒否することはできないため、会社は問題の解決に向けて誠実に対応しなければなりません。

(2)最高裁は「正社員登用制度」を「その他の事情」と評価

大阪医科薬科大学事件やメトロコマース事件では、最高裁が「正社員登用制度」を積極的に評価していたことが知られます。両判例では、それぞれ以下のような記述があります。

(大阪医科薬科大学事件)
アルバイト職員については,契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたものである。これらの事情については,教室事務員である正職員と第1審原告との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。) として考慮するのが相当である。
(メトロコマース事件)
第1審被告は,契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。これらの事情については,第1審原告らと売店業務に従事する正社員との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。

同一労働同一賃金には、「均等待遇」(イコール)と「均衡待遇」(バランス)があります。世の中で問題となるのはほとんど「均衡待遇」だと思いますが、この場合は、①職務の内容(業務内容、責任の程度)、②変更の範囲(①の変更範囲)、③その他の事情(労使慣行、特別な事情)の3つの要素で、待遇が不合理かどうかを判断します。
このうち③その他の事情の一部として、「正社員登用制度」が最高裁によって評価されました。もちろん裁判はあくまで個別の事件に対する判断であるため、そのまますべての事例にあてはめることはできませんが、最高裁の判例は事実上その後の判断を拘束するため、その意味はきわめて大きいといえます。

(3)中小企業の「正社員登用制度」は?

中小企業・零細企業では、正社員登用制度が整備されていないことも多いと思いますが、少なくとも契約社員やパートタイマーが活躍しており、正社員登用を実施・検討したことがある場合は、構築・運用することが望ましいでしょう。具体的な制度については、厚生労働省から「多様な正社員及び無期転換ルールに係るモデル就業規則と解説」が示されていますので、これらをたたき台にしつつ関係者で相談したり、専門家の意見を聴きたいものですね。
構築・運用の上での注意点は、2つあります。1つは、正社員登用制度の受験資格や選考試験について客観的で公正な基準を設けることです。客観的な基準がなく直属上司の判断による許可がなければ応募できなかったり、事実上社長の主観のみによって選考や登用の決定が行われるような場合は、社内制度としての正社員登用制度とは認められません。
そして2つめは、できるかぎり「パートタイマー→契約社員→正社員」といった形で段階的な転換制度を導入・運用することです。最高裁判例においても同様の趣旨の制度が運用されていたことが確認されており、多様な雇用形態に向けた柔軟な選択肢を示す企業の姿勢が一定の評価をされていることが知られます。また、このような制度を導入することで、結果的に登用制度の対象者が増やす方向性を打ち出すことができるともいえるでしょう。

(4)まずは第一歩を!

正社員登用制度はまだ導入していない会社の場合、まずは導入の可否について検討することになります。過去に実質的に正社員登用を行なった実績がある場合は、そうした実績をもとに今後の可能性を考えることになるでしょう。いずれにしても、まずは第一歩を踏み出すことが肝要です。最初から大きな制度を構築しようとせずに「小さく生んで大きく育てる」という発想に方が、経営層の思いが個々の労働者にもしっかりと浸透しやすく、結果として制度の導入・運用に成功するポイントだといえるかもしれません。
参考までに、弊社の小岩・山野が『ビジネスガイド』3月号に寄稿した「同一労働同一賃金 最高裁判決を踏まえた 正社員登用制度の構築&見直し」をご紹介します。本稿では、最高裁判決を踏まえた正社員登用制度の意義と具体的な登用試験や面接の例についてまとめています。中小企業の目線で執筆していますので、ぜひご参考ください。

弊社小岩・山野が『ビジネスガイド』3月号に「正社員登用制度」について寄稿。