メディアなどでも毎日のように話題になっている「働き方改革関連法案」ですが、5月31日の衆院本会議で衆院を通過しました。政府が今年の目玉政策としている同法案ですが、政局の混乱などによって先行き不透明感が広がっていましたが、結果的に5月中に衆院通過したことで、今国会で成立する可能性が高まってきました。
働き方改革関連法案の内容は、大きくふたつの柱に分けることができます。ひとつは長時間労働の上限規制を中心とする、労働基準法の約70年ぶりの大改正です。こちらは年次有給休暇の義務化高度プロフェッショナル制などを含みますが、今年のナデック通信1月、3月号でも取り上げています。
そしてもうひとつは、いわゆる「同一労働同一賃金」です。具体的には、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法等の改正案となっています。こちらは、労働基準法の改正案と比べるとやや分かりにくい印象があるでしょう。
そこで今月は、同一労働同一賃金について、みなさんとご一緒に整理してみたいと思います。
日本実業出版社が発行している、経理・人事・労務などの実務の専門誌『企業実務』6月号に、「どうする?『同一労働同一賃金』への対応」 について執筆しました。今までも何度か同誌には寄稿させていただいていますが、今回はなんと巻頭の「特別記事」でした。表紙にも背表紙にも大きく記事名が書かれると、少し気恥ずかしいですね。
この記事を書いていたのはちょうどGWの頃で、とにかく国会が混乱してまったく先行きが見えない時期でしたので、執筆のタイミングとしてはやや不安な要素がありましたが、結果的には衆院通過、なおかつ会期延長で参院での可決成立の可能性が高まる中ということで、いいタイミングになったと思います。
具体的な記事の内容は、以下の通りです。
1.同一労働同一賃金ではどこまで平等を求められるのか
・同一労働同一賃金の目的とは
・対象となる非正規雇用労働者とは
・同一労働同一賃金の判断基準
① 基本給の考え方
② 手当の考え方
2.これから必要となる労働条件の整備・調整
・「不合理であってはならない」の意味とは
・同一労働同一賃金が実施された場合の対応
3.同一労働同一賃金の実現に伴う「不利益変更」の留意点
・中小企業が不利益変更を実施するには
・不利益変更の具体的なフロー
『企業実務』 2018年6月号
出版社:日本実務業出版社
同一労働同一賃金とは、正規雇用と非正規雇用との間にある基本給や手当、福利厚生等をめぐる「不合理な待遇差の解消」が目的とされています。この場合の「非正規雇用」とは、有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者のことを指します。ただ、「正規」「非正規」の区別は完全に確立しているわけではなく、場合によってはどちらにも属さない人も出てくる可能性もあります。
同一労働同一賃金の具体的な考え方は、2016年12月20日に公表された「同一労働同一賃金ガイドライン案」に示されています。働き方改革関連法案が成立すると、このガイドライン案が正式なガイドラインとなることになります。ガイドライン案では、(1)基本給、(2)手当、(3)福利厚生について、「問題となる例」「問題とならない例」のパターンが解説されています。
(1)基本給
・基本給を労働者の職業経験・能力に応じて支給する場合
基本給の評価の対象となる職業経験や能力は、現在従事している業務に関連
のある内容である必要があります。
・基本給を労働者の業績・成果に応じて支給する場合
販売目標を達成したときに支給している基本給を、契約社員やパートタイマ」
ーだからという理由で、同じ業務に従事しているのに支給しない場合は問題と
なります。
・基本給を労働者の勤続年数に応じて支給する場合
契約社員やパートタイマー等についても入社時から通算して支給する必要が
あります。
(2)手当
・賞与を会社の業績等への貢献に応じて支給する場合
会社の業績等への貢献に応じて支給する場合は、契約社員やパートタイマーだからという理由で、賞与をまったく支給しなかったり、貢献に応じた支給をしない場合は問題となります。
・役職手当を役職の内容、責任の範囲・程度に対して支給する場合
契約社員やパートタイマー等が店長を務めている場合などは、同様の役職手当が支給されなかったり、低額である場合は問題となります。
・時間外・深夜・休日労働手当
時間外労働や深夜・休日労働を行った契約社員やパートタイマーについて、勤務時間が短いことを理由に手当の単価を低くすることは問題があります。
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
(不合理な待遇の禁止)
第8条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
上記は国会に提出されている法案の関係条文です。内容を分かりやすく整理すると、以下のようになります。
①(現在の)職務の内容 | ・業務の内容 ・業務に伴う責任の程度 |
---|---|
②(将来の)変更の範囲 | ・職務の内容(①)の変更の範囲 ・配置の変更の範囲 |
③その他の事情 | ・労使慣行 ・特別な事情 |
①職務内容、②職務内容の変更範囲、③その他(労使慣行や特別な事情)という考え方に立って、正社員と契約社員・パートタイマー等が、実態としていかに「異なる」仕組みで採用・配置・管理されているのか、ということを会社や部署として具体的に示していくことが大切となるでしょう。
国会で審議中の法案が成立したとしても施行は少し先になりますが、早め早めの実務対応に努めていきたいものです。