関西電力の大飯原発での偽装請負事件が、社会問題になりました。
プラントの改修工事をめぐって発注者、下請け、孫請けとの間で偽装請負が行われたとして、関係者ら3人が職業安定法違反で逮捕された事件。
職業安定法違反での逮捕には、驚かれた人も多いと思います。
「偽装請負」というのはよく聞く言葉ですが、その定義は分かったようでなかなか分かりづらいものです。
具体的には、職業安定法44条に定められる労働者供給事業の禁止にあたるものがそれです。
「何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない」。
「次条に規定する場合」とは、労働組合等の無料の労働者供給事業の場合の例外ですから、基本的にレアケースです。
分かりやすい例で、考えてみましょう。
発注者A社が元請けB社に工事を発注した。これが請負契約です。
B社は自社だけで工事を完成させられないので、その一部をさらに下請けC社に請け負わせた。
これはよくある話しです。元請けから請け負った仕事(の一部)をさらに下請けに請け負わせること自体は、違法ではありません。
そしてさらに、C社が孫請けD社に仕事の一部を請け負わせる。
建設業でも、製造業でも、IT業界でも、こんな例はものすごく多いのです。
そこで何が問題かというと、下請けC社や孫請けD社の従業員が、元請けB社から指揮命令を受けるようなケースがあることです。
C社の従業員はあくまでC社に雇用され、C社の従業員はあくまでC社に雇用されています。
だから、指揮命令は雇用主から受けるべきであって、「よその会社」であるB社から受けることはできません。
雇用主以外から指揮命令を受けるのは、労働者派遣にのみ認められた例外です。
そもそも派遣じたいが、職業安定法の規制の例外として認められた制度です。
ですから、「よその会社」から従業員が指揮命令を受けるような働き方(雇い方)は、重大な違法行為なのです。
雇用主には、雇用管理や安全衛生などについて、果たさなければならない多くの法律上の義務があります。
ところが、従業員が「よその会社」から指揮命令を受けると、誰がそういった雇用主の義務を果たすのかが曖昧になってしまいます。
最悪の場合、単に人を連れてくるだけで何らの義務を果たさず、報酬だけを手にする者も出てきます。
これが、法律が禁止する労働者供給事業です。
職業安定法44条に違反すると、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処せられます。
労働法の中でも、相当重い罪のひとつです。
原発偽装請負では、指定暴力団が介在するなど実態が特に悪質だったため、逮捕・略式起訴に踏み切られました。
また、経済産業省と厚生労働省も関係団体に対して、特に指示・要請を行っています。
一般の請負事業で行われていることとは、異質な内容だとはいえます。
ただ、職業安定法、労働者供給事業、偽装請負という法律の構成じたいは、すべて同じなのです。
ビジネスの現場において、間違っても偽装請負という状況が起こることがあってはなりません。
安易に「うちは大丈夫」と思わず、もう一度、社内のコンプライアンスについて、チェックしていただきたいものです。