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ナデック通信

2018年
11月号

派遣労働者の「働き方改革」「同一労働同一賃金」は?

先日、厚生労働省(中央合同庁舎5号館)で「第13回労働政策審議会 職業安定分科会 雇用環境・均等分科会 同一労働同一賃金部会」を傍聴してきました。

働き方改革関連法の施行によって、パートタイム労働者や有期雇用労働者、派遣労働者の「同一労働同一賃金」に向けた施策がスタートすることになりますが、特に派遣労働者については改正法の複雑さと労務管理上の特殊な位置づけもあり、具体的な省令やガイドライン策定に向けた動きが遅れています。

中小企業においては、パートタイマーよりも、契約社員よりも、先にスタートすることが決まっているはずの派遣労働者については、法律は通ったもののまだ細かなルール(省令やガイドライン)が、ほとんど決まっていないのです。

そもそも、なぜ派遣労働者の同一労働同一賃金だけ、大企業、中小企業の区別なくスタートするのかといえば、派遣元に雇用されながら、派遣先で働くという就業の特殊性ゆえです。

派遣元が大企業だけど派遣先は中小企業のこともあれば、派遣元が中小企業で派遣先が大企業ということも多いため、何をもって同一労働同一賃金とするのかということが設定しにくいのが実態です。

とはいえ施行に向けた年内のスケジュールから逆算するとそろそろ審議会日程も佳境というタイミングだったので、運よく上京の機会に傍聴に足を運ぶことになりました。
 

 
 
 
 
この日の部会のテーマは以下の3点でした。

①前回までの委員からの質問事項について
②同一労働同一賃金ガイドラインのたたき台(短時間・有期と、派遣労働者)
③短時間・有期労働法と、派遣法の省令・指針に定める項目について
 
 
 
 
私が議論を聴いていて、特にポイントだと思ったのは、以下の点です。

・派遣法の「協定方針」については、複雑で分かりづらいという意見が多い(具体的に厚労省に“ひな形”を公開するよう求める意見があった)。
・協定方式の場合の賃金水準は原則として毎年更新されるが、協定の有効期間は原則2年というのは矛盾している。
・賃金水準のうち賞与、退職金相当については、とりわけ慎重な議論が求められる(実際の派遣業務の幅に現実的に対応できるような流れが必要ではという意見もあった)。
・ガイドラインは全体として内容が難しい。一般の人でも理解しやすいリーフレット等を早急に準備すべき。
・待遇等の説明義務違反については、国会での審議状況と裁判実務の両面を見据えた慎重な対応が求められる。
 
 
 
 
全体の議論を聴いていての印象は、とても静かな環境で委員の方々による冷静な議論がなされており、厚労省の担当者の方々の対応もとても柔軟でスピーディーだと思いました。

立場や考え方の違いはもちろんあるわけですが、それぞれの委員の方々が十分に尊重し気遣い合う中で、全体としてひとつの方向性を見い出していくという現実の姿は、傍聴席にも十分リアルに伝わってきます。

国会での議論や個別の裁判におけるやりとりなどとはかなり違った審議会の役割と現実を、あらためてしっかりと見ることができた気がします。
 
 
 
 
派遣労働者の「同一労働同一賃金」は、雇用されている派遣元と比べるのか? 就業している派遣先と比べるのか? これは本当に難しいテーマです。

今回の改正派遣法は、「原則としては派遣先と比べるけれども、例外を認める」という考え方ですから、何もしなければ派遣先と比較することになります。

では、例外の場合はどうなのか? 誤解もとても多いのですが、例外の場合は派遣元と比べるのではなく、「一般労働者の平均的な賃金」と比べることになります。

「一般労働者の平均的な賃金」とは、派遣先でも、派遣元でもなく、世間一般のいわゆる正社員の平均的な賃金のことを指します。

具体的には、厚生労働省が省令で定める金額となりますが、それを実質的に決めるのが審議会ということで、熱い議論が展開されているわけです。
 
 
 
 

 
 
 

派遣先と比べる原則を「派遣先との均等・均衡方式」、一般の労働者と比べる例外のことを「労使協定方式」と呼びますが、この2つは「選択制」だとされています。

法律上は前者が原則であり、事業主が後者を選択しないと自動的に前者が適用されますが、その場合は派遣契約の締結前に派遣先の「比較対象労働者」(派遣先の正社員等)の情報を派遣元に提供することが義務となります。

「派遣先との均等・均衡方式」では派遣先が自社の賃金の情報などを派遣元に教えることが前提とされるため、実際には「労使協定方式」を選ぶケースが圧倒的に多いだろうといわれますが、このところの議論の方向からすると少し微妙になってきています。

「労使協定方式」を選ぶと、「一般労働者の平均的な賃金」が実質的に「派遣労働者版の“最低賃金”」となるほか、改正派遣法で決まっている事細かなルールをすべて守らなければなりません。

具体的には、協定によって待遇が決定される派遣労働者の範囲、派遣労働者の賃金の決定の方法などを労使協定で定めなければならないほか、派遣労働者の賃金は職務内容や成果、能力などの向上があった場合に改善されるものであり、派遣労働者を公正に評価することで賃金を決定するといった原則が課されることになります。

「労使協定方式」を採用すると、派遣労働者の賃金の改善を図る賃金表や昇給制度、公正評価によって賃金を決定する仕組みが求められ、正社員の人事考課のような本格的なものではないにせよ、派遣労働者の就業実態に即した何らかの制度を導入することが必要となるため、中小・零細規模の派遣元では現実的にそれらの設計・運用が困難という側面があると思われます。
 
 
 
 
さらに「一般労働者の平均的な賃金」は、賃金構造基本統計調査とか職業安定業務統計といった国の実施している統計数値に職種や勤続年数、地域といった実態を反映させて、「平均な賃金」を決めるという流れですが、賞与や退職金の数値も反映される方向で議論されているため、この賃金水準はある程度のレベルになることが予想されます。

したがって、結果的には「派遣先との均等・均衡方式」の原則を適用した方が、さまざまな矛盾や煩雑さを内包するにせよ、現実的な実務フローが描きやすいという可能性もあります。

具体的には大詰めの段階にある年内の審議会での議論次第とはいえ、大まかな方向性自体は大きく変わることは考えられないため、派遣元、派遣先としては、「派遣先との均等・均衡方式」「労使協定方式」双方を睨んだ実務対応を考えておく必要があると思います。

なお、11月23日に開催するセミナーでは、こうした点などを含んだ最新情報をお伝えできると思います。興味のある方は、ぜひご参加ください。

「『働き方改革』実務対応セミナー」を開催します。