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ナデック通信

2018年
4月号

出会いの季節の春に考える ~「ひと」と向き合うふたつの世界観~

 春は出会いの季節です。新入社員の入社あり、転勤や配置転換による出会いあり。子どもの頃の「クラス替え」もそうですが、この時期はワクワクするような、不安でいっぱいのような、新しい世界との出会いの連続ですね。そんな春は、あらためて「ひと」と向き合う季節だといえるかもしれません。

 人間関係は、最初が肝心。このことは、子どもの頃のクラス替えと本質はあまり変わらないと思います。新しく出会う最初の踏み出し方を間違うと、ボタンの掛け違いはその後にずっと尾を引いてしまうものです。だからこそ、清々しくもほろ苦いというのが、春なのですね。

 「人は第一印象」といいますが、社労士という仕事をしていると、組織の運営やリーダシップの現場においても、やはり最初の第一歩が大事だということを痛感します。ファーストインプレッションということもありますが、最初を間違うと思いがけないリスクを背負うことにもなりかねません。

 北風と太陽ではないですが、人間観にはふたつの傾向があります。これを性善説と性悪説と呼ぶのは今風ではないそうですが、いずれにしても世の中はふたつの傾向性のコントラストの中で成り立っており、さまざまなキャラクターの人たちが存在するのはもちろん、ひとりの人格の中にも両方の要素が存在するのが通常です。
 
 
 
 
 人間として、性善説に立った方が望ましい倫理観であることは、一般的に反対する人はいません。とにかく人を信じて、その人の立場に寄り添って、親切丁寧に向き合っていく。ましてや、今はとんでもない人材難の時代です。こういう努力を重ねていかなければ、一歩も業務が動かないという職場も多いでしょう。

 私は最近、社労士仲間で陽明学などを勉強したりしていますが、中小企業の労務管理と向き合う社労士がそういった真剣にそういった分野と向き合うことの意味については、確信に近い手応えを感じています。例えば、「万物一体の仁」という発想は、東洋人としてのバックボーンを持つ私たちのDNAの奥底に秘められており、人と人とが協力し合いながら働く場においても基本に位置づけられるように思います。

 あらゆるものはすべて根底でつながっているのであり、したがって他人と自分とを分けることに本質的な意味はなく、他人も自分もすべて身体の一部のようなもの。こうした考え方は、職場において円満で建設的な人間関係を築いていく上でも、すぐれて効果的で本質的な流れだといえるかもしれません。

 頭ではなく、心で感応し合える関係。実際に、陽明学に限らず古典的なテキストを朝礼などで活用したり、ワークショップを導入した社員教育などを実践することで、みんなが共鳴し合える職場風土づくりに成功している企業もいくつか存在します。こういった取り組みなどは、ある意味ではあらゆる職場で理想的な姿のひとつだといえるように思います。
 
 
 
 
 一方で、いうまでもなく企業経営においてはリスク管理が大切です。これは事業の規模を問わず重要であり、とりわけ雇用管理においては欠かすことができない視点です。ましてや、年を追うことに労働者の権利意識が強まり、経営者と労働者との関係において、相対的に労働者の権利を強化する方向の法改正の流れがますます強まる中で、従来と変わらない意識の中で労働者と向き合っていたのでは、それ自体が経営上のリスクにもなるという時代になりつつあります。

 いたずらに性悪説に立つものではないにせよ、経営者や管理者が無知であったのでは必要な対策を講ずることができず、ただ善意や誠意を打ち出すだけではドライな労働者と現実的に向き合うことが難しくなってきた時代。
ひとつ対応や手順を間違えば、表面的に「いい人」であることが雇用管理上の“命取り”になるかもしれないというのが、偽らざる現実であったりします。

 私も尊敬するある著名な弁護士の先生は、セミナーなどでこのように話されます。

「経営者は“いい人”であってはいけない。実は“いい人”が経営する会社ほど労務トラブルが多く、しかも深刻な事態に発展する傾向がある。 “ワンマン経営”がいいとはいわないが、中小企業のオーナー会社などでは、ある種の筋が通った“ワンマン経営”の方が規律が保たれ、労務トラブルが起こらず、業績が上がるパターンが多いのは間違いない」。
 
 
 
 
 もちろん、どちらが正しくてどちらが間違っているという問題ではないと思いますが、人間には得てして「ふたつの世界観」があり、それは“「ひと」と向き合う”場面において如実に表れるものです。私が拙い経験の中で感じることは、人間にはこのふたつの傾向性があるから、自分がどちらの傾向に近いかを知ることは大切ということです。

 すべてを一般化するのは危険ですが、人間は基本的に自分と似たものを好む生き物です。高い倫理観を目指して人と向き合う人は同じような考え方の人と分かり合い、結果を出すためにドライに人と向き合う人はやはり似たような発想を持ち人に共鳴するものです。そうすると、どうしても対極に位置する考え方の人には苦手意識を持ってしまったり、結果的に距離ができてしまったりする。

 高い倫理観を植え付ける流儀には多くの人が賛同しますが、残念ながらすべての人が心から一体になれるわけではありません。理想としてはある種の正しさだと理解していても、日々ひたすら現実と向き合い、リアルに起こる結果こそがすべてというのが、厳しいビジネスの世界です。そんな中で足並みをそろえずに理想論に突っ走ってしまうと、どれだけ理想が正しくても、一定の頻度で労務トラブルは起こってしまうものです。

 逆に、ある種の“ワンマン経営”にもよさがあるというのは、先ほどの例のとおりです。少なくとも、労務トラブルの予防と対策という視点からは、行き過ぎない程度の“ワンマン経営”は効果を発揮するというのが、現実だったりします。このことは、肌感覚で実感されている人も少なくないでしょう。問題なのは、その経営者のリーダシップをいかにルールに落とし込み、仕組み化するかということになります。
 
 
 
 
 私が日常的に中小企業の経営者の方々と接していて感じるのは、方向性としては自分が持っている性格や気質とは逆の要素を取り込む努力をしていくがプラスに働くケースが多いということです。誰にでも欠点や盲点がある以上は、それらを補ったり、別のものに置きかえる流れをつくることで、結果的にバランスが取れて全体として最適化がはかられる傾向があるのだと思います。

 だから、自分はどちらかといえば高い倫理感を持って・・・という人は、ちょっとくらい健全なワンマンの部分を持った方がよく、自他ともに認める“ワンマン経営”だという人は、迷わずに例えば陽明学的な志向を盛り込んでいった方がよいといえるでしょう。

 出会いの季節である春。こんな意識を頭の片隅に置きながら、新たな出会いと向き合っていったらよいのかもしれませんね。