同一労働同一賃金が、各方面で話題になっています。新聞や雑誌などでも、大きなタイトルが踊ることが多くなってきましたね。
昨年末に働き方改革実現会議から「ガイドライン案」が示されましたが、あくまで「案」の段階だということもあって、その目的や位置づけが分かりづらいところもありました。
同一労働同一賃金の目的は、正社員と契約社員やパートタイマー等との間の格差を是正するすることにあります。
この場合の格差とは、あくまで「不合理な待遇差」をことを指しています。ですから、必ずしも同じ仕事をしている労働者が例外なく同じ賃金でなければならないわけではありません。
具体的には、以下のような要素の違いに応じた待遇の違いは認められることになります。
①(現在の)職務の内容 | ・業務の内容 ・業務に伴う責任の程度 |
②(将来の)変更の範囲 | ・職務の内容(①)の変更の範囲 ・配置の変更の範囲 |
③その他の事情 | ・労使慣行 ・特別な事情 |
①は、現在その人が従事している仕事(職務)のことをいいます。職務の内容には、業務の内容(具体的に担当している仕事の内容が違うかどうか?)と、その業務に伴う責任の程度(仮に従事している仕事は同じであったとしても問われる責任が違うかどうか?)があります。
②は、将来、その人の職務の内容(①)が変更されたり、配置転換などが行われる可能性(範囲)が異なるかどうか?という点です。
③は、①②以外で実態として認められる労使慣行や、ある部署やある業務について存在する特別な事情です。
たとえば、営業職の正社員がルートセールスを担当しており、同じ部署に所属している契約社員が同様にルートセールスに従事している場合、これだけをみれば「不合理な格差」が認められる可能性が高いです。
ただし、実際にはこの正社員が部下の管理業務も行っている場合は「業務の内容」が異なるといえ、正社員のみが具体的なノルマとそれに伴うペナルティを背負っており、契約社員にはそれらが存在しない場合は、「責任の程度」が異なるといえるでしょう。
より具体的な例で考えてみましょう。
月給30万円の正社員Aさんと、月給20万円(日給でも同じ)の契約社員Bさんが存在し、仮に2人が基本的に同じ仕事をしており、異なるのは経験や能力だとします。
この場合、「不合理な待遇差」であるかどうかが問題となりますから、必ずしも「均等」(BさんもAさんと同じ月給30万円にすべき)とはなりませんが、「不合理な待遇差」でないことの合理的な説明が求められます。
Aさんはいかなる経験や能力を持っていて、その結果としてBさんよりもパフォーマンスが良くて、逆にBさんはAさんよりもパフォーマンスが悪いということを、具体的に説明することはそう簡単ではありません。
そこで、仮にこの会社に人事評価制度やそれに基づく等級がある場合は、Aさんの等級とBさんの等級とを比較するという発想をすることになります。
正社員であるAさんには等級があるけれども、Bさんにはないという場合は、Aさんに適用されている人事評価に当てはめて、Bさんの等級を検討することになります。
結果的に、たとえば、Aさんは3等級なので月給30万円、Bさんは4等級相当なので月給25万円と評価された場合は、その差額の「5万円」は「不合理な待遇差」である可能性が高いということになります。
これは、あくまでこのような人事評価制度や等級が存在し、適用されている場合の話です。
そもそもこのような制度が存在しなかったり、実際に適用されていなかったり、あるいは契約社員に当てはめるという発想が成り立たない場合には、、まったく別の展開ということになるでしょう。
その意味では、これからの“同一労働同一賃金”時代に向けて、人事制度や評価制度の必要性が問われています。
もちろん大企業のような立派な制度である必要はありませんが、正社員と契約社員やパートタイマーといった非正規雇用とが、同じモノサシで比較できることが大切です。
ぜひ、自社の例に照らして、これからの絵を描いていきたいものです。
『企業実務』7月号(日本実業出版社)に、「いまから把握しておきたい 同一労働同一賃金ガイドライン案の中身」を寄稿しました。
以下の内容について簡潔にまとめています。
(1)ガイドラインの目的と位置づけ
(2)「同一」とはどういう待遇を指すのか
(3) 問題になるケース、ならないケースの読み方
(4)いまのうちに準備しておきたいこと
「いまからチェックしておきたい点 チェックリスト」も掲載していますので、興味のある方はぜひ一度ご覧ください。