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ナデック通信

2013年
10月号

一生記憶に残る恩師、上司とは?

わたくしごとですが、かつて学部時代にお世話になった恩師が亡くなり、つい先日、母校で開催された「お別れ会」に出席してきました。

ゼミの主任教授として指導していただき、大学院に進学するきっかけを与えてくださった先生だったので、突然の訃報に驚きました。

あらためて当時を振り返り、先生から教えられたことが、時代を超えて、分野をまたいで、現在の仕事にも生きていることを思うと、感謝の思いが込み上げてきました。

本当に、人は人によって磨かれ、育てられるものだと思います。
 
 
 
卒業後も何度か母校を訪れる機会がありましたが、ここ十数年は残念ながら遠のいていました。

結果的には、社労士になってからは一度も足を運んでいなかったのです。

よく、独立起業すると、いったんそれまでの人脈は途絶えてしまうといいますが、奇しくもその通りだったのかもしれません。

今回、フェイスブックなどを通じて何人かの同級生とつながり、実際に再会できたことは小さくない感動でした。

今年はGWの大同窓会を皮切りに、中学・高校時代の同級生との輪も急速に広がっていますが、なにげに40代になった年の共通の変化なのではとも感じています。
 
 
 
 
私には、心の底から「恩師」と呼べる人が、3人います。

その1人が、今回亡くなられた歴史学者の青木美智男先生、もう1人が高校時代に「未来社会からの留学生」であることを徹底的に叩き込まれた恩師、そして、大学院時代にとにかく自由奔放に学習・研究することを許され、温かく力強く見守ってくださった主任教授です。

高校時代の恩師がこの世を去り、青木先生が旅立たれたことは、かなり大きなショックでもあります。

とくに、青木先生は不慮の事故でもあり、直前に専門誌で発表された対談でも、「重い病気でもしなければ、まだ少し時間があると思いますので、次のことをやり遂げたいと思っております」と語っておられただけに、本当に残念です。
 
 
 
 
ところで、人の一生の中には、生涯の記憶に残る恩師や上司がいると思います。

私の場合は、恩師と呼べる人は3人であり、社労士の中では開業当初に何から何までお世話になった先生たった1人が、心底尊敬できる方です。

一生の恩師、上司と呼べる人は、そう簡単には現れないのだと思います。

その一方で、心を素直にして、すべてを柔軟に受け入れると、意外にも「師」と呼ぶべき人が現れたりもします。

学生時代や開業当初にそういった人に出会う確率が高いのは、ひとつには純粋な気持ちのあり方にあるのだとも思います。
 

 
   
  
 
 
 
青木先生は、日本近世史研究の第一人者です。岩波文庫に代表される小林一茶研究が有名ですが、小学館の『体系日本の歴史』や藤沢周平の研究でも知られます。小学館の同シリーズは、私が学生時代に初めて揃えた通史研究でもあり、格別の思い入れがありました。

それまで政治・経済史の視角からの考察が主流だった江戸時代研究を、文化・生活史の視点から鋭く描き直し、江戸時代を現在の生活文化の基礎が形づくられた時代だと再評価したところに、先生の研究の最大の特徴がありました。
 
 
 
青木先生のもとで学んだ私はといえば、恥ずかしながら先生の研究テーマや演習スタイルには、なかなか馴染めずにいた存在でした。

失礼を省みずにいえば、先生が文献研究・実証史学の権威だとするなら、当時の私はそういった潮流に違和感を感じた生意気な学生であり、文献よりも理論、実証よりも思想や哲学を志向したいと願っていました。

でも、そんな勝手わがままな私を先生は快くゼミに迎えてくださり、他の仲間たちも加わった自由闊達な議論にどこまでも付き合ってくださいました。

そして、常に熱意あふれる寛容な態度で大学院に進学するまで根気よく指導してくださったことには、本当に感謝しています。
 
 
 
 
思えば、実証(法律)か理論(理念)かという二律背反の構図は、社労士になってからの私が背負っている構図とまったく近いものです。

実証を基礎とする営為の大切さを十分自覚しつつも、若気の至りもあってあえて理論や理念への憧憬を深める。

でもそれは、単なるわがままでも勘違いでもなく、おそらくはどの業界・分野でも共通する摂理なのだとも思います。

基礎から応用に羽ばたくことを志向しつつ、あえて応用への思いから俯瞰して基礎を形づくっていくことを望んだりもする。

その意味では、青木先生は真に一生の恩師であり、一生感謝の念を忘れることのない方です。
 
 
 
あるとき、ゼミ仲間たちとの議論を見守っていた青木先生が、私にこう語りました。

「それでは、尾崎みたいな生き方になるよ。悪くはないけど、確実に基礎から固めていった方がいいな」。

実証史学を学びつつ歴史哲学や社会思想にかぶれていた私に対して、愛情に満ちた手厳しい言葉でした。

当時は尾崎豊の急死がクローズアップされていた時代だったので、先生はあえてそんな表現を選んだのでした。

確かに、尾崎は一世を風靡した才気あふれるミュージシャンでした。でも、無理を続け、生き急いでいた面があったことも、衆目の一致するところでしょう。
 
 
 
今の私には、この先生の言葉の意味するところが、いつになく心に届きます。
 
一生記憶に残る恩師(上司)とは?

意外にも、そうしたふとした一言から、人の一生に影響を与える存在なのかもしれません。

すべてのベクトルが一致し、あらゆる点で模倣したいと願う人が、恩師や理想の上司とは限らないのかもしれません。

私たちが部下を迎え、新人を採用し、あるいは教壇に立つのにあたっても、ひそかに意識していきたいものです。

持てるものすべて発揮する中で、魂のこもった一言を差し出すことで、その人の一生にも影響を与える人。

もしかしたら、これが真の恩師であり、理想の上司なのかもしれません。