三重県の社会保険労務士法人ナデック

初回相談無料!まずはお気軽にナデックまでお電話ください。

三重県の労務問題、労使トラブル、行政対応、研修講師ならナデックへ。

059-388-3608
受付時間 10:00-18:00
HOME ナデック通信 第3号被保険者、被扶養者制度の今後は?
a

ナデック通信

2023年
5月号

第3号被保険者、被扶養者制度の今後は?

いわゆる「年収の壁」問題が各方面で話題になっています。典型的な主婦パートなどの人たちが一定の労働時間を上回ってしまうと、年金の第3号被保険者や健康保険の被扶養者制度の取り扱いから外れてしまい、その結果、手取り収入が減ってしまうという問題ですが、数年前から議論が深まりつつありますが、コロナ禍の出口をめぐって人手不足が加速すると見られていることから、今年はさらに具体的な政策に踏み込まれるのではないかといわれています。

岸田首相が2月の予算委員会で「年収の壁」問題への対応を表明したことから、政府での対応が期待されていますが、衆参の補選や統一地方選挙がひとまず終わったことから、通常国会の後半戦で具体的な政府案が提出されると見られています。ちなみに、ひとことで「年収の壁」といっても複数のパターンがあり、具体的には以下の数字が挙げられます。

「100万円の壁」・・・これを超えると住民税の納付が必要
「103万円の壁」・・・これを超えると所得税の納付が必要
「106万円の壁」・・・これを超えると勤務先によって社会保険への加入が必要
「130万円の壁」・・・これを超えると社会保険への加入が必要
「150万円の壁」・・・これを超えると配偶者特別控除(満額)が受けられなくなる
「201万円の壁」・・・これを超えると配偶者特別控除がなくなる


(「女性の視点も踏まえた社会保障制度・税制等の検討」令和4年12月22日、内閣府男女共同参画局)

実際には個人の事情や制度などによっても異なるので、具体的に全体像を理解するのはかなり難解ですが、上記の内閣府男女共同参画局の資料などは具体的な政府統計などが図表化されていますので、論点を把握して全体像をつかむのに最適な資料だといえるでしょう。

さまざまな論文やメディア記事などでは野村総合研究所(NRI)の作成した試算が根拠とされることが多いですが、一般に公開されたものとしては「『「年収の壁」による働き損』の解消を―有配偶パート女性における就労の実態と意向に関する調査より―」(2022年10月27日)などが分かりやすいです。特に以下の図表などはしばしばメディアなどでも使用されています。

(「『「年収の壁」による働き損』の解消を―有配偶パート女性における就労の実態と意向に関する調査より―」2022年10月27日)

夫の年収500万円(別途家族手当)、妻は106万円超で社会保険加入、2人世帯というモデルでは、妻の年収100万円のとき世帯手取り額は513万円であるにも関わらず、妻の年収が106万円に増えると世帯手取り額は489万円となり、差し引き24万円が減少する「働き損」が発生すると試算されています。この矛盾を解消するためには、妻の年収が138万円となる必要があり、当初の年収から4割増となることが求められます。

このような「年収の壁」については、先日の中日新聞サンデー版(4月16日付)でもカラーのビジュアルで詳しく取り上げられていました。東海圏の人は中日新聞を読んでいる人が多いので馴染みがあると思いますが、日曜の朝に見て「これは分かりやすい」と思ったので顧問先やスタッフにも共有して使ったりしています。この記事で目をひいたのは、紙面に付せられた制度への解説および意見です。新聞記事は最大公約数的な見解しか書かれないことが多いですが、以下のようにかなり個別の見解に踏み込んでいたように思いました。

(1)年収の「壁」が作られた背景は?
→「男性は外、女性は家庭」という“昭和モデル”が原因

(2)そもそもの目的は?
→妻の「内助の功」に報いるため

(3)今後はどうすべき?
→共働き世帯7割、時代にあった制度改正を

「年収の壁」への解決策として、政府は手取りが減るパートタイマーを救済するために、社会保険料を肩代わりする助成金を検討しているといいますが、あくまで暫定的な措置としてはともかく、助成金の原資は基本的には税金であり、それを特定の労働者にだけ給付するのは公平性に欠く上、社会保険に加入することで将来受ける年金額が増える点とも矛盾するといえます。

岸田首相は予算委員会での答弁で「壁を意識することなく働くことができるように短時間労働者への社会保険の適用拡大を進めてきた」と述べましたが、その発想をさらに拡大させていくことで、そもそも第3号被保険者や被扶養者自体を撤廃することが、根本的な解決につながるかもしれません。問題の本質は、「103万円」や「130万円」の壁によって一時的に手取りが減ることなのではなくて、そうした“昭和型モデル”自体がもはや時代遅れだというところにあるからです。

「年収の壁」の問題は、男女雇用機会均等、男女共同参画、同一労働同一賃金、男性育休の推進などといった政策とある意味、真っ向から矛盾するだけでなく、経済的な事情とともに、社会の機運や職場文化に与えている影響もきわめて大きいように思います。最低賃金1,000円を目指す時代、あたかもアクセルとブレーキを同時に踏み続けるようなことはやめて、男女がともに支え合いながら自由に仕事も家庭も担いあっていく仕組みへと変化していってほしいものです。