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ナデック通信

2022年
10月号

賃金のキャッシュレス化について

 先日、社会保険労務士法人ナデック創立20周年記念イベントを開催しました。台風が近づく中、県外も含めて多数の方々にご参加いただきました。コロナ禍の中でもあり、開催を迷った時期もありましたが、開催して本当に良かったと思います。当日ご参加いただいたみなさま、お祝いやお花をくださったみなさまに、あらためて心からお礼申し上げます。

 当日は二人のゲストに講演をいただき、またピアニストとボーカルの方に二度に渡って演奏いただきましたが、トップバッターのゲスト講話は、アドバンスニュースの大野博司さんでした。つねに労働行政の第一線で取材している大野さんからは、「多角的に考察する「派遣業界2022—23」」と題してお話ししていただきました。数々のトピックについて触れられましたが、その中で会場でひときわ注目されたのが、賃金のキャッシュレス化のテーマでした。

 現在、労働基準法では、賃金は、原則、通貨で、直接労働者に、全額を支払わなければならないとされており、労働者の同意を得た場合には、労働者が指定する口座への振込みなどにより支払うことが認められています。今日では、賃金の支払いは銀行振込みが一般的ですが、それは法律的にはあくまで例外であり、したがって実務的にも、労働者の同意や口座の指定といった手続きが不可欠とされています。

 そんな中、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、
資金移動業者の口座への給与受取などのニーズも見られることから、一定の要件を満たした場合には、それを可能とするルールが作られることになります。コンビニなどでの電子決済などは利便性の向上も見込まれるため、講話を受けて会場からも多くの関心や歓迎の声が聞かれました。

 9月22日に厚生労働省から労働基準法施行規則の一部を改正する省令案についてのパブリックコメント(意見公募)が募集されており、10月21日まで受付されています。これによると、以下の①~⑧の要件をすべて満たすものが厚生労働大臣の指定を受けた場合には、労働者が指定する第二種資金移動業に係る口座への資金移動により賃金を支払うことを可能となります。

① 賃金支払に係る口座の残高(以下「口座残高」という。)の上限額を 100 万円以下に設定していること又は 100 万円を超えた場合でも速やかに 100 万円以下にするための措置を講じていること。
② 破綻などにより口座残高の受取が困難となったときに、労働者に口座残高の全額を速やかに弁済することができることを保証する仕組みを有していること。
③ 労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰すことができない理由により損失が生じたときに、その損失を補償する仕組みを有していること。
④ 最後に口座残高が変動した日から、少なくとも 10 年間は労働者が当該口座を利用できるための措置を講じていること。
⑤ 賃金支払に係る口座への資金移動が1円単位でできる措置を講じていること。
⑥ ATMを利用すること等により、通貨で、1円単位で賃金の受取ができ、かつ、少なくとも毎月1回はATMの利用手数料等の負担なく賃金の受取ができる措置を講じていること。
⑦ 賃金の支払に係る業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。
⑧ 賃金の支払に係る業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。

 今は各分野でペーパーレス化やキャッシュレス化が急速に進んでおり、電車に乗るときもかつてのように切符を購入する人は少数派となり、スーパーやコンビニなどで買い物をするときも電子マネーなどを活用する場面が随分増えてきました。当日、大野さんからお話しもありましたが、賃金支払いのキャッシュレス化が進むと、たとえば週払いや日払いなどへの円滑かつ柔軟な対応や業務の効率化によるコストダウン、多様な働き方のさらなる推進にともなう働き手のニーズへの対応や雇用の安定化などにも資することが考えられます。

 省令改正の公布は令和4年11月、施行は令和5年4月1日が予定されていますが、ポストコロナの動向次第とはいえ、人手不足に拍車がかかりつつある時流の中で、人材確保と定着のために最新の法改正情報はくまなく把握した上で、講じるべき手立てを柔軟に対応していくことが多くの経営者や担当者には求められているといえるでしょう。キャッシュレスサービスの「ポイント」を目当てに新たな形態での給与受取を希望する労働者がどこまで増えるかは分かりませんが、それ以上に賃金支払いをめぐる選択肢が増えることは個人か会社かを問わず大きな可能性を秘めているのかもしれません。