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ナデック通信

2022年
7月号

社会保険の改正と働き方・暮らし方の変化

 いよいよ7月です。例年は夏に向かう梅雨の季節ですが、今年はもう真夏の暑さが続いていますね。7月といえば社会保険の算定基礎。今年は1日から11日が提出期間となっていますから、まさに今が実務の繁忙期です。つい先日、三重県経営者協会の社会保険実務講座に登壇しましたが、今年はちょうど1か月前の労働保険実務講座に引き続いてリアルで講座をお届けできたことを改めて嬉しく思っています。ここ数年はコロナ禍で思うように動けなかったり、人と会うことができなかったりしましたが、当然ですがリアルだからこそ伝わるもの、つかめるもの、共有できるものがあると思います。そんな感覚を大切に、これからも与えられた役割を果たしていきたいものです。

(1)社会保険の勤務期間要件の変更

 社会保険の被保険者資格は、週の所定時間と1か月の所定日数が正社員などの4分の3以上とされていますが(常時501人以上の企業の場合はいわゆる「短時間労働者」も該当し、令和4年10月から常時101人以上に適用拡大)、勤務期間の要件は10月から改正されることになります。具体的には、①雇用期間が2か月以内の場合の取扱いの変更、②短時間労働者の勤務期間要件の変更となります。

①雇用期間が2か月以内の場合の取扱いの変更

 現在の社会保険の仕組みでは、2か月以内の期間を定めて雇用される労働者は適用除外とされていますが、10月以降は、当初の雇用期間が2か月以内であっても、次のいずれかに該当する場合は雇用期間の当初から社会保険に加入することになります。

・就業規則、雇用契約書等において、その契約が「更新される旨」、または「更新される場合がある旨」が明示されている場合
・同一事業所において、同様の雇用契約に基づき雇用されている者が、更新等により最初の雇用契約の期間を超えて雇用された実績がある場合

 例えば、現在は2か月契約の契約社員は社会保険の適用除外がないとされていますが、改正後は、契約期間が2か月であっても契約更新が予定されていたり、同じ事業所で2か月契約の労働者が契約更新された実績がある場合などは、入社時から社会保険に加入しなければなりません。雇用契約書などの契約期間が「2か月」とされていても、改正後はあくまで実態で判断することになるため、実務の取扱いには十分に注意したいものです。

②短時間労働者の勤務期間要件の変更

 10月からのもうひとつの改正点は、短時間労働者の「勤務期間1年以上」の要件が撤廃です。短時間労働者の勤務期間要件が一般の被保険者と同様になることで、改正後は①と同じく雇用期間の見込みが2か月超の場合などは社会保険に加入することになります。
 従来、短時間労働者には4つの適用要件(週所定労働時間20時間以上、月額賃金8.8万円以上、勤務期間1年以上見込み、学生は適用除外)がありましたが、改正後は勤務期間1年以上見込みが撤廃され、3要件となります。一般の被保険者と同じ要件になることで分かりやすくなりますが、①で触れた2か月以内の場合の契約更新見込や更新などの実績がある場合の取扱いも同様である点は注意したいものです。事業所の規模にかかわらずに実施され、業種業態を問わず現場で直面するケースが多いと思われますので、確実な実務対応に心がけたいものです。

(2)社会保険の適用拡大と働き方・暮らし方

 近年は社会保険をめぐる法改正が非常に多いですが、とりわけ10月からの社会保険の適用拡大は、実務のみならず経営全般に与える影響も多く、たんなる制度の改正というだけではなく、これからの働き方や雇用のあり方を占うインパクトを持つものだといえます。事業所の規模を問わず経営者にはほぼ共通する危機感があり、適用拡大は間違いなく企業経営を圧迫する上に、多くのパートタイマーや嘱託社員は社会保険への加入を望んでおらず、手取りが減る働き方を希望しない人が多い現状を考えると、人手不足の採用難にさらに拍車がかかって人材確保がますます厳しくなるとの懸念もあります。
ただ、中長期のスパンでこれからの日本を見据えていくと、適用拡大の方向性は必ずしも悲観される部分ばかりではありません。適用拡大が進んでいくことで確実にもたらされる変化。それは「130万円の壁」が解消に向かう方向だと思います。個人の社会保険への加入、将来の年金への影響などはもちろん大切なことですが、長い目で見れば適用拡大は同時に私たちの働き方や家族のあり方も確実に変えていくことになります。

戦後日本の「性別役割分業モデル」(男性を主な働き手とし、女性を主に家事・育児の担い手とする役割分担)は、社会保障や税制のあり方によって規定づけられてきたことが知られます。日本では、昭和60年に施行された男女雇用機会均等法によって女性の就業支援が後押しされてきましたが、同時に第3号被保険者制度や扶養控除制度などによって、いわゆる「専業主婦」の存在感を増す政策が実効されていきました。
いうなれば巧みなバランス感覚によって、アクセルとブレーキが踏み分けられて、女性の就業とケア労働がミックスされた形で志向されてきたといえます。家庭にあって良妻賢母として位置づけを期待されながら、男性たちと同じように働きキャリアを積むことで社会的に活躍することが求められた女性たちは、バランス感覚の難しさに苦しみあえぎながらも、いわば昭和的な価値観と平成後半以降の価値観とが併存しながら、なんとか均衡を維持してきたというのが今までの日本社会だといえるかもしれません。

しかし中長期のスパンでみればダブルインカムによる家計維持のモデルはもはや既定路線だと考えられ、男性のみが働き手となるモデルが本の中心モデルから姿を消す日はそう遠くはないと思います。一方で、人びとの意識は必ずしも追いついておらず、社会規範もまだまだ昭和のカルチャーが色濃く根づいており、制度面でもかつての性別役割分担を前提とする仕組みがいまだ顕在だといえます。
そんな中にあって実施されていく社会保険の適用拡大のインパクトは必ずしも小さくはなく、確実に次の時代の絵を私たちに引き寄せていくことになるといるでしょう。すなわち、典型的なパートタイマーが正社員と同じ社会保障制度に入ることで、旧来の性別役割分担モデルは社会的な役割を終え、ようやく女性活躍推進、同一労働同一賃金、過重労働撲滅、男性の育児休業取得・・・などの
国策が本来の意味で根底から動き始めていくことになります。

適用拡大のその先にあるのは、第3号被保険者制度です。この議論はなかなかに複雑で、とても数年でコンセンサスが得られるものではありませんが、奇しくも適用拡大のインパクトが強力に先行することで、実質的にパートの働き方のみならず職場における位置づけが変わり、さらにはそれにともなって家族のあり方そのものも変わっていくにではないかと見られます。
従来の「性別役割分業モデル」が良いのか悪いのか、それにはさまざまなとらえ方や価値観があると思います。しかし、今までの社会でそれから外れるモデルがなかなか確立してこなかった現実を考えると、それなりの負担感や不安感はあったとしても、時代の駒が次に向けて進んでいくことの意義は小さくないといえるかもしれません。