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ナデック通信

2020年
5月号

「新型コロナウイルス」と労働者派遣

1.緊急事態宣言と休業手当

新型コロナウイルス感染症の影響で労働者を休業させる企業が相次ぎ、いわゆる特措法の緊急事態宣言が全国に発令されたことにより、都道府県知事からの要請・指示等によって労働者を休業させる例も少なくありません。これは派遣労働者についても例外ではなく、派遣先が労働者を休業させるにあたって派遣労働者を対象とする例もあり、具体的に派遣契約の解除等が社会問題にもなっています。
労働者を休業させる場合は、使用者は労働者に労働基準法26条に基づいて平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければなりませんが、この点について厚労省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」の「4 労働者を休ませる場合の措置(休業手当、特別休暇など)」では、「問1 新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、どのようなことに気をつければよいのでしょうか」への回答として以下のように記載しています。

*不可抗力による休業の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。

「不可抗力による休業」の場合は、「使用者の責に帰すべき事由」ではないことから休業手当の支払い義務が発生しませんが、そのための要件としては、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること、の2点を満たす必要があります。
この点について「問7 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請・指示を受けて事業を休止する場合、労働基準法の休業手当の取扱はどうなるでしょうか」では、以下のように記載しています。

①に該当するものとしては、例えば、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請などのように、事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因が挙げられます。
②に該当するには、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があります。具体的な努力を尽くしたと言えるか否かは、例えば、
・自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか
・労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか
といった事情から判断されます。

したがって、全国に緊急事態宣言が発令されている状況においては①を満たすと考えられますが、②を満たすためにはテレワーク等により自宅勤務が可能であるかどうか、配置転換により就業継続が可能かどうかについて検討することが必要です。ただし、派遣就業については派遣契約によって対象業務が限定されており、派遣元も派遣先もそもそも派遣労働者に配置転換を命令する権限を有しないことから、配置転換については具体的な要件とはならないと考えられます。
 

新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

2.派遣契約と休業手当

それでは、緊急事態宣言が発令されている下で、派遣先による派遣契約の中途解除が行われた場合はどうなるのでしょうか。派遣法や派遣先が講ずべき措置に関する指針では、以下のような措置義務を派遣先に課しています。

派遣法29条の2(労働者派遣契約の解除に当たつて講ずべき措置)
労働者派遣の役務の提供を受ける者は、その者の都合による労働者派遣契約の解除に当たつては、当該労働者派遣に係る派遣労働者の新たな就業の機会の確保、労働者派遣をする事業主による当該派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担その他の当該派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければならない。
派遣先指針 (4) 損害賠償等に係る適切な措置
派遣先は、派遣先の責に帰すべき事由により労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合には、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることとし、これができないときには、少なくとも当該労働者派遣契約の解除に伴い当該派遣元事業主が当該労働者派遣に係る派遣労働者を休業させること等を余儀なくされたことにより生じた損害の賠償を行わなければならないこと。

派遣先は、「派遣先の責に帰すべき事由」によって派遣契約の解除を行おうとする場合は、新たな就業機会の確保や休業手当等の支払いに要する費用負担等の措置を講じなければなりません。しかし、緊急事態宣言が発令されている状況では基本的には派遣元に休業手当の支払い義務は発生しないと考えられますので、「派遣先の責に帰すべき事由」には該当せず、派遣先は休業手当相当額の支払い義務は生じないと考えられます。
ただし、派遣先指針の第2の6の(3)の「派遣先における就業機会の確保」は「派遣先の責に帰すべき事由」の有無に関わらずに求められるため、派遣先は関連会社での就業のあっせん等により、新たな就業機会の確保を図る必要があります。
Q&Aの「9 労働者派遣」の「問2 (派遣先の方)改正新型インフルエンザ特別措置法に基づく緊急事態宣言下で、都道府県知事からの要請・指示等を受け、事業を休止したことを理由として、労働者派遣契約の内容の変更等を行う場合に、派遣先は派遣元事業主から派遣料金や金銭補償を求められることになりますか」では、以下のように回答されています。

労働者派遣契約の履行を一時的に停止する場合や、労働時間や日数など労働者派遣契約の内容の一部を変更する場合には、それに伴う派遣料金等の取扱いについては、民事上の契約関係の話ですので、労働者派遣契約上の規定に基づき、派遣元と派遣先でよく話し合い、対応してください。

具体的には派遣契約の内容によることになりますが、今回のような不可抗力の事態に対して派遣先に派遣料金等を請求するような契約関係はあまり考えられないと思います。派遣元としては円満な話し合いで派遣先の理解と協力を得る努力が求められるでしょう。

3.派遣労働者とテレワーク

新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するための有効な対策の1つとしてテレワークが推奨され、実際に多くの事業所で導入されています。この流れは派遣労働者についても例外ではなく、派遣労働者にテレワークの実施を求める派遣先も少なくありません。
この点についてQ&Aの「問4 (派遣先の方)改正新型インフルエンザ特別措置法に基づく緊急事態宣言が出されたこと等を踏まえ、派遣労働者についてもテレワークの実施を行うに当たり、労働者派遣法に関して留意すべきことはありますか」では、以下のように記載しています。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するためには、テレワークが有効な対策の1つであり、派遣労働者についても、派遣先が自ら雇用する労働者と同様に、積極的なテレワークの活用をお願いいたします(※)。
派遣労働者に関しテレワークを実施するためには、就業の場所などについて、労働者派遣契約の一部変更を行うことが必要になる場合があります。
この場合の契約の変更については、緊急の必要がある場合についてまで、事前に書面による契約の締結を行うことを要するものではありません。ただし、派遣元事業主と派遣先の間で十分話し合い、合意しておくことは必要ですので、ご留意ください。
※ 派遣先での派遣労働者に対する指揮命令は、必ずしも対面で実施しなければならないものではありません。業務の内容を踏まえ、テレワークによっても必要な指揮命令をしながら業務遂行が可能かどうか、個別にご検討ください。

テレワークを行うと就業場所が変更されることになり、一般的には派遣契約の内容を変更する必要がありますが、この点について国は今回のような緊急の必要がある場合には柔軟な対応をすることを認めています。派遣元としては派遣先がテレワークを実施した場合は現実的な対応が求められるため、必要な範囲で実施することができるようにする必要があるでしょう。

4.派遣労働者と雇用調整助成金

経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が雇用の維持を図ることが目的の雇用調整助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて特例措置が設けられ、雇用を守るための手段として全国で多くの事業所が活用しています。
雇用調整助成金は当然のことながら派遣労働者も対象となり、新型コロナウイルス感染症の影響によって派遣先が休業補償を行った場合も該当することになります。厚生労働省の「雇用調整助成金FAQ」では、4月24日版で新たに項目が追加され、以下のように記載されています。

問 21 派遣先企業が派遣契約を解除し、派遣元に休業手当相当額の損害賠償を行った場合、派遣先企業は助成金の対象となりますか。また、派遣元は派遣先 から損害賠償を受けても、助成金の対象となるのですか。

◯ 派遣労働者と雇用関係のある派遣元が助成金の対象となり、派遣先は対象となりません。
◯ また、派遣先が派遣元に休業手当相当額の損害賠償を行った場合であっても、派遣元は助成対象となります。

派遣元が派遣先から休業について補償を受ける場合であっても、制度上は民間の損害保険等から給付を受けるようなケースと同様であり、派遣元は雇用調整助成金を申請することができます。事実上は同じ休業に対する「二重取り」ということにもなりますので、労働局やハローワークなどから実態の説明を求められることがありますので注意しましょう。