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ナデック通信

2022年
2月号

「コロナ禍の真の意味について考えよう!」

一年の中でも最も寒い2月。大寒を過ぎて徐々に日の入が遅くなり、日によってはほのかに春の気配を感じる風を受けることもありますが、全国的に雪も多くまだまだ真冬の寒さが続きますね。さらに今年はオミクロン株が猛威を振るっているため、ほぼ全国に渡ってまん防が発令されるなど、コロナ第6波の影響もまだまだ予断を許しません。諸外国の例などから見て、ほどなくピークアウトしていくという見方もありますが、いずれにしても2022年も完全なるポストコロナ、アフターコロナを迎えるには今しばらくの時を要するようです。
コロナ禍の意味とは何だったのでしょうか。2年以上に渡って私たちの社会や経済、仕事や私生活はもとより、教育や文化にも大きな影響と変容をもたらしたコロナと対峙した時代は、単に世界がパンデミックになって地球規模の手ごわい疾病との闘いに明け暮れていた時期だと総括するのは、ややもすると偏ったものの見方なのではないかと思います。未知の感染症の恐怖感に苛まれながら、行動や営業活動の自由にも制約がかかり、あたかも出口の見えないトンネルに引きずり込まれたような私たちですが、あえて穿った見方をするならばその中にも、今までは決して疑いが持たれなかったり、変えたくても変える契機をつかむことができなかったさまざまなテーマについて、なかば強制的にみんなが直視することを余儀なくされ、必ずしも主体的には時代の駒を進めることが困難だった部面.について、想像もしなかったスピード感で変革がもたらされつつあるといえるのかもしれません。
 
 
社労士の目線からいうなら、働き方はその最たるテーマだと思います。戦後日本においては働き手の主たる契約形態は、雇用でした。雇用関係においては、労働者は雇用主に対して持参債務を負うとされ、就業場所に出勤して退勤時刻まで会社の拘束に置かれ、逐次その指揮命令に従って働くのが本旨とされました。この関係においては、原則として賃金は出勤から退勤まで指揮命令に置かれた拘束時間について発生するとされ、労働者の勤務の結果による具体的な成果の有無や程度と賃金とが直接紐付くものではなく、使用者はいわゆる固定残業代的な支払い方を除いては、もっぱら労働時間を単位として賃金を支払う義務があります。工場法の時代の仕組みから由来しているこのような形態は、労使双方にとってさまざまな矛盾や乖離の要素をはらみつつも、根本的に見直されることはなかったのが令和にいたるまでの流れでした。
働き方改革実行計画においてもテレワークの普及が国策として推奨されていますが、コロナ禍においては現実の必要性としてテレワークが全国各地で広がることになりました。地域特性による格差や業種業態による浸透度の違いはあるとはいえ、従前の議論において懸念されていたことが杞憂だったかのごとく、加速度的に各方面に広がり浸透していった姿には、多くの人の意識にも大きなインパクトを与えたのではないかと思います。すぐに労基法の労働時間の解釈が変容することはないにせよ、働き手の判断や裁量によって就業場所や労働時間の管理や仕事の段取りについて、柔軟に取り組む余地がじわじわと芽生えてくることは間違いなく、結果としては将来に向かって大きな変革になりうる流れがすでに始まっているといえるでしょう。
 
 
ジェンダーについても同じです。男女雇用機会均等法から女性活躍推進法へと流れをくむ男女平等、女性活躍推進の理念は、働き方改革においても具体的な重点課題とされる国策として推進されていますが、同一労働同一賃金やパワハラ防止法が施行される令和の時代になっても、数々の統計数値を見る限りにおいていまだ国際社会よりも立ち遅れているのが現状だといえます。男性は仕事、女性は家庭(家事、子育て)という古典的な性別役割二元論的な発想は、ともすると日本古来の揺るぎない伝統であるかにように誤解され、現在においても賃金や待遇の格差、採用やキャリア形成のあり方などをめぐって、さまざまな差別や不合理が存在するといえます。
ところが、コロナ禍においてこのようなあり方はかなり変容しました。テレワークが当たり前の時代になった現在、男性が自宅で仕事をしながら家事や子育てにあたるのは極めて普通のことですし、平日の昼間に中年男性が街中や公園で幼児を連れて歩いているのは不審者扱いされかねないという、「平日昼間問題」も自然とそういう人が増えたことで基本的にはあまり問題視されなくなったと感じます。小さな子どもを抱えた女性はフルタイムで働きにくいとか、責任のある地位に就くことが難しいといった課題についても、オンラインでの勤務という就業形態の幅ができつつあることで、段階的とはいえかつてよりも壁が解消される方向に向かっているといえるでしょう。
 
 
コロナは「黒船」だったという人がいます。現在進行形でまさにその脅威と対峙している時代において黒船になぞらえるのは憚られるかもしれませんが、私はそのような比喩は当たっていると思います。雇用された以上あくまでオフィスに出社して仕事する方法しかない。仕事の成果に関わらず拘束時間のみで賃金が発生する現実に疑問を挟む余地がない。男性は仕事、女性は家庭という固定観念を払拭することができない。仕事と家庭生活とを両立させるという願いは勝手なわがまま。これらのテーマについて、すべてがすぐに解決に向かっているわけではないにせよ、力強い変容が起こりつつある現実を見るとき、もしかしたら後世の史家はコロナを黒船と評するかもしれないというイマジネーションにはそれほど違和感がないかもしれません。
実際にはコロナ禍がいつ完全な収束に向かうかは誰にも断定的なことはいえず、まだまだ予断が許さないといえますが、個人的にはそろそろ労働や生活という観点から見たときのコロナ禍の真の意味について考え向き合う時間を持つべきではないかと思います。医療やそれに関わる行政的な視点からはお叱りを受けるかもしれませんが、人類の歴史は衝撃と変化と進化の歴史でもあり、さまざまな社会的な困難や軋轢と対峙し乗り越えることで、それまでは実現しなかった展望がひらけ、新しいステージが誕生してきたことも事実です。今は労使対立の時代でもないし、男女が分け隔てられる時代でもありません。時代の流れを素直に受け止めながら、誰もが自分らしく活躍できる場が少しでも充実することを目指して、それぞれの立場や役割において取り組んでいきたいものです。
 
2022年2月

社会保険労務士法人ナデック代表社員 小岩 広宣