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ナデック通信

2021年
12月号

「職場風土が良くなる 《パワハラ防止対策》のポイントは?」

パワハラ防止対策の重要性が叫ばれています。いわゆるパワハラ防止法(労働施策総合推進法)は大企業については2020年6月からスタートし、2022年4月から中小企業にも施行されることもあって、世の中のパワハラへの意識の高まりは加速し従来以上に企業対応の必要性も強まっています。まず、具体的な法律の規定を確認してみましょう。

 (雇用管理上の措置等)
第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
3 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。(以下略)

(1)パワハラの類型と対応について

 1項で「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③雇用する労働者の就業環境が害されること」というパワハラの定義づけがされ、2項で労働者に対する不利益取り扱いの禁止がうたわれ、3項に基づいてパワハラ防止指針(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が公表されています。上記の法律の定義だけでは、実際にパワハラに該当するかどうかの判断を行うことが困難なケースが多いと考えられるため、国のガイドラインとして指針が示され、パワハラの類型が以下のように整理されています。

(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
(5)過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

 これらのうち(1)(3)(4)(5)は社会的な常識に基づいて部下と接していればただちにパワハラに問われるケースはそれほど多くはないと考えられるため、現場で問題になりやすい類型は(2)(6)だといえます。裁判例などでも、上司や先輩社員による人格否定や侮辱的な言動などで労働者がメンタル不調をきたし、精神疾患を発症した場合には、会社側の責任が問われる事例も少なくありません。単に厳しい口調で責めたり、不適切な言動があったのみでパワハラが認定されるわけではありませんが、労働者の非違行為や秩序違反、問題行動などの有無や程度と、それに対する会社側の対応との関係や妥当性などを十分に考慮、検討して対応していくことが大切でしょう。
 個の侵害についても、労働者の私的な交際の適否について会社側が介入したり働きかけようと行ったことがパワハラと認定された例もあり、職場における交友関係や交際などのプライベートの内容についてはもっぱら各人の自主的な判断に委ねる必要があるといえます。労働者の個人情報や個人の価値観、信条、病歴や家族の状況、私物の内容など、直接業務に関係がなく労務管理上の必要のない情報などの収集には特に慎重を期し、基本的には労働者本人の同意を得る必要があるという共有認識を深め必要な措置を進めたいものです。

(2)パワハラ予防措置について

パワハラ防止法では、相談窓口の設置、パワハラ禁止規定や懲戒規定の策定、社内におけるパワハラ防止のための周知・啓蒙などの義務が事業主に課せられています。さらに、パワハラ研修などの実施や労働者に対する不利益取扱いの禁止などが求められています。これらの措置について問題があったときは、行政上の措置として、厚生労働大臣が必要と認めるときは助言・指導・勧告を行い、勧告を受けた者がそれに従わないときは企業名公表ができるとされています。事業主に課せられた義務を整理すると、以下のとおりです。

①パワハラ相談窓口の設置
②パワハラ禁止規定、懲戒規定の策定
③社内調査体制の整備
④パワハラ禁止の周知・啓蒙
⑤パワハラ研修などの実施
⑥不利益な取り扱いの禁止

 相談窓口については総務部や人事部に設置するのが一般的ですが、顧問弁護士、顧問社労士などの外部専門家に委任することもできます。いずれにしても社内にパワハラ防止措置に取り組む部署は必要であり、法律判断や実務判断が必要な場面で相談できる社外専門家の存在も有益だといえるでしょう。申告を受けた場合の相談については専用の相談室を設け、できれば複数の担当者が同席する体制を作り、女性社員から申告を受けた場合は女性の担当者が同席すること望ましいでしょう。これらの点は、就業規則(パワハラ禁止規)に規定します。

(3)パワハラが発生したときの具体的対応

労働者から申告があった場合は、担当者が本人から十分にヒアリングし、同様に加害者からもヒアリングを行い、必要に応じて上司や同僚などからも事情を聴きます。不一致点があればできる限り客観的に記録するように努め、意見の相違が大きい場合はメールやメモ、当事者以外のヒアリング結果などを丁寧に集め、漏れなく記録するようにします。事実関係をもとに調査委員会で懲戒の有無や程度を検討しますが、調査を経てどうしても事実関係が判明しない場合には、労働局や裁判所などの第三者機関に紛争処理を委ねるケースもあります。
 企業の経営陣や担当者にとって悩ましいのは、得してパワハラの加害者となる労働者は仕事ができて自分に厳しく社内の人望がある人が多く、逆に被害者となる労働者はそれほど仕事ができず他人に厳しく自分本位な人が多い点です。企業の論理としては加害者の方が余人に代えがたい人材だということも少なくないため、被害者の言い分をある種の色眼鏡で見てしまったり、被害者を排除する方策を検討するような傾向もあります。人間の性格や人間性は十人十色といいますが、会社側の対応としてはあらゆる類型の人をありのままに受け止め、誰に対しても人間として感情移入できる幅を持つことが肝要だといえるでしょう。

(4)パワハラ予防カードについて

パワハラについて理解を深め、会社から撲滅させるためには、ただ単に法律の内容や知識を学ぶだけでなく、質の高い人間関係が構築できる組織風土を目指していくことが大切です。そのためのひとつの手法として、「パワハラ予防カード」があります。パワハラ予防カードとは、パワハラを未然に防ぐために知っておくべき知識と実践項目を厳選・順序化して55枚のカードにしたものです。このカードを使って演習やワークショップを行うことで、働く人がパワハラを起こさないだけでなく、部下との関係の質を向上させ、心理的安全性が高く働きがいのある職場づくりを引き寄せていくことができます。パワハラ予防カードの効果には、以下のようなものがあります。

<個人にとって>
・部下との良好な関係づくりのポイントが理解でき、自信をもって部下と接することができる
・自己理解が深まり、これまでとは違った枠組みで多面的に物事を見ることができる
・状況に応じたパワハラ予防カードを選び実践することで、短期間に部下との良好な人間関係が構築できる
<会社にとって>
・人間関係の質が向上し、パワハラが起こらない組織風土を醸成することができる
・管理職・職場リーダーの人間関係構築力、人材育成力がアップし、従業員エンゲージメントが向上する
・心理的安全性の高い職場が形成される


 弊社小岩も所定の研修を修了して「パワハラ予防士」に認定されており、顧問先をはじめとする労務管理や組織風土づくりに活用するほか、社労士法人としての社内教育、コミュニケーションツールとしても利用しています。実践してみると、パワハラ予防についての基本理解が進むのはもちろん、みんなで和気あいあいと相互理解を深める場にもなり、共通の目標を目がけて楽しく学びあうことができると実感します。パワハラをめぐるトラブルや啓発の必要性はますます増えてくると思いますので、ぜひそれぞれの現場の実態に応じて実践していただきたいと思います。「パワハラについて共通理解を深めたい」「うちでもそうした研修がやりたい」という人は、お気軽にお声がけください。