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ナデック通信

2021年
11月号

育児介護休業法改正 《男性の育児休業》のポイントは?

日々顧問先の事務手続きを代行していても、男性の育児休業取得が増えてきたことを痛感します。私(小岩)が開業した頃(約20年前)には男性の育児休業の手続きはほぼ皆無でしたし、夫が妻の扶養に入るのにもかなり煩雑な申立書と年金事務所(当時は社会保険事務所)への説明が必要な時代でした。社労士の受験時代には、労災等級が男性と女性とで異なるという、今の常識からはかけ離れた法律知識を学んだものですが、確実に時代が変わり社会通念も変わったものです。
 今では夫婦共働きが当たり前の時代となり、「夫は仕事」「妻は家事・育児」という固定観念は過去のものになりつつあります。ただでも出産・育児は妻にとって物理的にも精神的にも負担がかかる期間ですが、妻自身が社会・経済活動の中で重要なポジションに就くケースも多い昨今では、家族を中心とする周囲のサポートの必要性がさらに高まっているといえます。
男性の育児休業は国家公務員について民間に先行して取得促進が行われてきましたが、男性の国家公務員が2020年度に新たに育児休業を取得した割合は51%と前年度から大幅に上昇し、初めて50%を超えて過去最高となりました。民間企業においても、男性の育児休業の取得率は12.65%(2020年、雇用均等基本調査)まで上昇しています。政府目標の13%には届かなかったものの、確実に取得促進の流れは浸透しつつあるといえるでしょう。
男性の育児休業取得のさらなる促進などを盛り込んだ育児介護休業法が2021年6月に改正され、男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設、育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付けなどが制度化されました。改正の概要は、以下の通りです。

①男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設(2022年10月~)
②育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け(2022年4月~)
③育児休業の分割取得(2022年10月~)
④育児休業の取得の状況の公表の義務付け(2023年4月~)
⑤有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(2022年4月~)

(1)男性の育児休業の「義務化」ではない

世間では、法改正によって男性の育児休業取得が義務化されると誤解している人もいますが、あくまで出生後8週間以内に男性が柔軟に取得できる育児休業制度が整備されるものであり、改正後は取得対象の男性に対して育児休業制度について説明し、取得の意向を個別に確認することが義務づけられることになります。事業主は、男女問わず該当者が育児休業を取得できる旨を通知・説明した上で、取得を促すための意思確認を行わなければなりません。改正後は、育児休業の申出期限が従来の原則1か月前までから2週間前までに変更され、従来は原則分割は認められなかったルールが変更されて分割して2回取得することが可能となるため、出産後の時期に柔軟に育児休業を取得することができるようになります。

(2)妻が育児休業中でも夫も取得できる

まれに「妻(夫)が子育てに専念しているのなら、夫(妻)は育児休業を取ることはできないのでは?」という疑問を持つ人が今でもいらっしゃいます。2010年までは、労使協定で定めることによって、育児に専念できる配偶者(主婦や主夫)やいわゆる内縁の妻などがいる場合は労働者からの育児休業申出を拒むことができましたから、このような誤解をするのかもしれません。現在ではもちろん法改正がされていますが、何となく漠然とかつてのルールが脳裏に焼き付いていている場合もあるので、注意が必要です。育児休業にあたってに家族の状況を聞くことは不適切ですが、ハラスメントになることを警戒するあまり必要以上に萎縮したり距離を置いてしまうことも問題であり、休業開始や休業期間、業務の引き継ぎなどについては十分に本人の意思を確認することが必要ですので、落ち着いてコミュニケーションを取ることを心掛けたいものです。

(3)雇用期間が1年未満でも取得できる

かつての育児介護休業法には、「引き続き雇用された期間が1年以上であること」「1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでないこと」という要件がありました。そのため、現実問題として、パートタイマーや契約社員が育児休業を取得するのは困難なケースが少なくありませんでした。改正育児介護休業法では、「引き続き雇用された期間が1年以上であること」という要件が削除され、入社1年未満の契約社員でも取得できるようになります。「1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでないこと」の方は残っていますが、確実に契約社員だからパートタイマーだから育児休業は関係ないといった世の中ではなくなりつつあります。

(4)労使協定によって休業中の就労が認められる

育児休業中は原則として勤務することができないため、業務上の事情や社内の役割などによって、育児休業の取得を断念せざるを得ないようなケースもあります。改正育児介護休業法では、このような問題を少しでも改善するため、労使協定を締結している場合に限って、労働者が合意した範囲で休業中に就業することができるルールが新設されます。労働者本人が事業主に希望と条件を申し出て、事業主が労働者が同意した範囲で就業を認めるという流れになります。2021年10月からの施行となりますが、うまく運用すれば弾力的な働き方と育児休業を両立させることができ、労働者本人にとっても職場にとっても有意義な活用が可能となるでしょう。

(5)これからの日本の育児休業の意義

かつての日本では、育児休業は正社員が取得するものであり、とりわけ女性社員のための制度だという発想が支配的だったと思います。これはいうなれば、正社員は1日8時間、週5日働くのが当たり前であり、それ以外の非正規雇用の人たちはあくまで正社員をサポートする存在だという偏見が根強くあったことの裏返しです。今では多様な働き方が当たり前の世の中になりつつあり、短時間正社員や男性の育児休業、テレワークやワーケーション、雇用によらない働き方なども定着しつつあります。私たちはコロナ禍という試練を経験しましたが、その中でもたらされた知恵や経験は、確実に未来志向で多様な働き方を引き寄せるきっかけになったと思います。「男だからフルタイムで働くのは当たり前」「育児や家事は女性(妻)が担って当然」という発想が、必ずしもすべての人に共有できる価値とは限らない時代であることを念頭において、未来志向で多様な働き方と向き合っていきたいものです。