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ナデック通信

2021年6月号

コロナ禍における「不利益変更」の注意点は?

長引くコロナ禍が景況にも深刻な影響が出ています。2021年1~3月期の実質国内総生産(GDP、季節調整値)はマイナス成長となり、続く4~6月期も厳しいという見方が広まっています。業種業態や地域、経営環境にもよりますが、企業業績自体が悪化したり、労働者の休業が長期化することによって、人員削減や待遇の見直しなどを図らざるを得ないケースが増えています。雇用調整助成金などを活用した雇用維持に向けた努力が続けられていますが、それらの取り組みにも自ずから限界があり、今後受給要件などの特例が解除されることで雇用情勢が悪化する可能性もあります。

コロナ禍による経営悪化によって人員整理や労働条件の見直しを行う場合は、その目的・方法や契約形態によって、法律上の取扱いが異なります。有期契約の場合は、あらかじめ契約期間が限定された契約であるため、契約期間中の解雇はよほどの事情がないかぎりは認められません(労働契約法第17条)。無期雇用の場合は、一般的には①解雇、②整理解雇、③退職勧奨の3つのパターンに分けられます。

①解雇

 ご存知のように、日本の労働法では、解雇は相当高いハードルを満たさないと認められません。合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効となるため(労働契約法第16条)、社会人の一般常識に照らして誰からみても相応に納得できるに足るだけの理由が必要となります。なお、解雇はあくまで労働者本人に原因がある場合の会社側からの契約解除ですので、コロナ禍による経営不振によって人員整理を行う場合は、解雇ではなく「整理解雇」となります。

②整理解雇

 不況や経営不振などの理由による人員削減のために行う解雇のことをいいます。一般的にいうリストラの意味で行われる解雇はこれに該当します。コロナ禍における人員整理は一般的に整理解雇に該当しますが、特定の労働者に対して一方的に契約解除を通告するような場合は、解雇に該当する可能性もあります。整理解雇の場合は解雇とは有効性の判断基準が異なり、以下の「4要素」を満たしているかどうかで判断されます。

(1)人員削減の必要性・・・人員削減の実施が不況、経営不振など企業経営上の十分な必要性に基づいていること
(2)解雇回避の努力・・・配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
(3)人選の合理性・・・整理解雇の対象者を決める基準が客観的・合理的で、その運用も公正であること
(4)解雇手続の妥当性・・・労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと

③退職勧奨

 退職勧奨は、使用者が一方的に労働者に契約解除を通告する解雇とは異なり、労働者の自発的な意思に基づいて退職するように勧めることをいいます。あくまで使用者側からの誘引によって労働者が意思決定する流れであるため、一般的には退職金の上積みなどの優遇措置が講じられるケースが多いです。長時間の拘束や暴言などによる精神的圧迫などパワハラに該当するような場合は、退職勧奨とは認められません。コロナ禍による経営不振などを理由に退職勧奨は、整理解雇と並行して、あるいは整理解雇の前提として行われることが多いです。

「不利益変更」の留意点

 今までみてきたパターンは、あくまで雇用契約を解除する場合の類型です。日本では解雇や契約解除は事実上相当に高い規制に置かれていますので、経営上の理由でやむなく雇用コストを削減せざるを得ない場合の選択肢としては、解雇などによる人員削減ではなく給与などの労働条件の見直しによるコスト削減を検討したり実施したりするのが一般的です。このような考え方は、コロナ禍における経営不振にあたっても基本的には同様です。

 ところが、労働者の賃金などの労働条件を使用者が一方的に引き下げることは、容易に認められるわけではありません。そもそも賃金などの労働条件は入社時などに労働者と使用者との約束(合意)によって決定しているものであり、労働者は給与を日々の生活の糧としているわけですから、そう簡単に引き下げがまかり通らないのは当然だといえます。

 使用者が労働条件を一方的に引き下げることを「不利益変更」といい、労働契約法9条では「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」とされています。不利益変更は絶対に認められないわけでありませんが、労働者本人の合意がない場合は相応の手続きや条件を満たす必要があります。

 まず考えられるのが、労働組合との団体交渉を経た労使合意です。この場合は労働組合法によって労働者と使用者の双方が拘束されることになりますので、基本的には円満に労働条件の変更を実施することができます。大手企業などでは労働組合との交渉と妥結によって不利益変更を含めた労働条件の変更を実施することが多く、この場合は一方的に不利益変更を強いるのではなく労働者側に有利となる他の条件なども議論された上で、全体として長期安定的な労使関係が構築されているケースが多いといえます。

 しかし、中小零細企業では労働組合が組織されていることは少なく、また存在しても組織率が低いなどの事情で積極的に機能しないケースが多いです。このような状況の中でコロナ禍における経営判断として「不利益変更」を検討・実施するには、どうしたらよいのでしょうか。

 先ほどみた労働契約法の条文を解釈すると、労働条件は労働者と使用者との「合意」によって変更することができると考えられます。しかし、この場合の合意は、会社が作った合意書に単にサインをさせれば大丈夫というものではありません。最高裁判例では、「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か」(山梨県民信用組合事件、最高裁、平成28年2月19日)が問われるとされ、この考え方は今でも変わってはいません。

 会社が作成した合意書などへのサインを会社が主導すると、状況によっては労働者の「自由な意思」という点に疑問が付される可能性があるため、合意書のみによって労働条件を変更することは会社側に大きなリスクが残ります。そのため、現実的には並行して就業規則の変更手続きを進めるのが一般的です。

 労働契約法10条では、「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なもの」であることが求められています。このため、就業規則の不利益変更にあたっては、通常の就業規則の作成や変更以上に丁寧に制度設計をしたり、きめ細かく意見聴取をしていくことになります。

 労働条件の不利益変更にあたっては、あくまで労働者の個別合意が前提となりますが、賃金の決定や計算の方法については、就業規則の絶対的記載事項とされているため(労働基準法89条)、結果的には就業規則の変更を経る必要があります。一方で、就業規則の効力には、労働者との個別合意の効力を高める方向づけを与えるという意味も含まれるため、労働組合が存在しない中小企業の現場においては、ふたつの手続きが現実的に補完する関係にあるといえるでしょう。

 「労働者との個別の合意」
 →労働者の自由な意思に基づくと認められる合理的理由・客観的事情が必要
                +
 「就業規則の変更」
 →労働者の不利益の程度・変更の必要性・内容の相当性・変更事情の合理性が必要

 具体的なフローとしては、以下のような流れが考えられます。不利益変更をめぐる訴訟で使用者側の主張が受け入れられた例としては、「あらかじめ従業員に変更内容の概要を通知して周知に努め、一部の従業員の所属する労働組合との団体交渉を通じて、労使間の合意により円滑に賃金制度の変更を行おうと努めていたという労使の交渉の経緯や、それなりの緩和措置としての意義を有する経過措置が採られたことなどの諸事情を総合考慮するならば、上記の不利益を法的に受忍させることもやむを得ない程度の、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるといわざるを得ない」(ノイズ研究所事件、東京高裁、平成18年6月22日)などがありますが、いずれにしても丁寧な手続きや説明などを確実に積み重ねることがポイントになるといえるでしょう。

①(ニーズの把握など)従業員の納得性を高める取り組み

 
・従業員・労働組合からのヒアリング
・制度構築への従業員の参画

②労使の丁寧な話し合い・合意

 
・従業員・労働組合への提案
・意見交換に基づく合意

③賃金原資総額の維持

・基本給等への組み入れ、他の手当の増額、新手当の創設

④必要な経過措置

・手当が減少する場合は長めに経過措置を設定
・最低半年程度は支給額を維持し、2~3年の経過措置

⑤決定後の新制度について丁寧な説明

・説明会の実施、質疑応答
・一定の周期で教育と見直し

 上記はあくまで典型的なフローを示した例であり、必ずしもすべてを満たなければ不利益変更が絶対に無効になるというものではありませんが、特に②労使の丁寧な話し合い・合意や④必要な経過措置などは重要な要素だといえるでしょう。
 いずれにしても不利益変更をめぐる労働条件の変更はとりわけ慎重にプロセスを進めるべきであり、結果的に無効と判断されたり疑義が生じるような場合には、労使紛争や退職者の発生、訴訟といったリスクが発生してしまうケースも考えられます。のちのち労使間の深刻な問題に発展してしまうことのないよう、事前の準備を心掛けて円満な合意形成、制度構築に努めていきたいものです。

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