三重県の社会保険労務士法人ナデック

初回相談無料!まずはお気軽にナデックまでお電話ください。

三重県の労務問題、労使トラブル、行政対応、研修講師ならナデックへ。

059-388-3608
受付時間 10:00-18:00
HOME ナデック通信 そもそも「裁量労働制」とは?
a

ナデック通信

2018年
3月号

そもそも「裁量労働制」とは?

 「裁量労働制」が話題になっています。「働き方改革」が今年の大きなテーマでしたが、国会が始まってみると、改正案が提出される前に「裁量労働制」の話ばかり。そもそも、働き方改革関連の中で議論があるテーマではありますが、国の予算審議にも影響が出るというのは、ちょっと意外かもしれません。

 「裁量労働制は、とっても危険な働き方」
 「働く人の命に関わる問題だ」
 「ブラック企業の温床になる」
 
 国会審議の中でもメディアの報道などでも、いろいろな指摘があります。もちろん、この制度の持つ弊害やリスクは存在します。実態は企業や職場によってそれぞれとはいえ、そうした深刻な側面に目配せしていくことは大切でしょう。

 一方で、裁量労働制の基本的な仕組みや運用については、あまり触れられていない気がします。そんな基本はほとんどのみなさんが理解されているのだとしたら、それはそれで好ましいことだと思いますが、労働時間をめぐる制度は思った以上に複雑です。

 そもそも、「裁量労働制」とは何なのでしょうか?
 
 
 
 
 働いた時間数に応じて賃金が支払われるのが、日本の労働法の大原則です。成果や業績が挙がるかどうかは関係ありません。したがって、どんなに専門性が高い仕事でも、自分の裁量で仕事をしている人も、同じです。

 どんな働き方をしていても、どんな結果が出ても出なくても、1時間働いたら1時間分の賃金をもらうというルールは同じ。これは公平で平等だといえますが、ある意味では不平等でもあります。場合によっては、同じ仕事をしている人のモチベーションが下がったり、不平不満が出ることもあるでしょう。

 そこで、労働時間の仕組みの例外として置かれているのが、「裁量労働制」です。この仕組みを導入すると、賃金は単純に労働時間に対して支払われるのではなく、その仕事(成果)に対して支払われることになります。高い専門性があったり、裁量で仕事をしている人にとっては、とてもフェアな考え方だといえるでしょう。

 日本の労働基準法は、もともと工場法をベースとしています。いうまでもないことですが、工場労働では時間による生産管理、労務管理が基本です。例外はあるにせよ、同じ工場で同じ作業を同じ時間従事しているのであれば、同じ賃金をもらうのが当然。この考え方が、今も昔も底流に流れています。

 でも、世の中の産業や職種は多様化しています。社会全体としてますますサービス業化の傾向が色濃くなっている時代、製造業を中心とする労働時間管理をスタンダードとするのは、やはり限界があります。いや、製造業であってもIT化やAI化の推進によって、労働のあり方が急速に変貌しているというのが実際でしょう。

 さらには、モバイルや通信環境、クラウドシステムなどの発達によって、業種や業態ににもよるとはいえ、働く「場」という概念も徐々に変わりつつあります。先月、厚生労働省から自営型テレワークについてのガイドラインも出されましたが、これからはそうした形態も含めた多様な働き方がさらに広まっていくと思います。

 そういった社会環境の変化や多様な働き方の実態と関連しているという視点からとらえるなら、裁量労働制がいちがいに「悪」とはいえないことは明白でしょう。
大切なのは、制度ではなく、その使い方、運用の仕方です。
 
 
 
 
 今の労働基準法では、2種類の裁量労働制が存在します。「専門業務型」と「企画業務型」です。「企画業務型」はやや特殊なので、メディアなどで取り上げられているのはほとんど「専門業務型」です。

 これらの制度は、広い意味で「みなし労働時間制」と位置付けられています。「みなし労働時間制」とは、仕事の時間配分を本人の裁量に任せ、実働時間ではなくあらかじめ設定した時間数を働いたとみなす制度のことです。具体的には、次の3種類です。

 ①事業場外のみなし労働時間制
 ②専門業務型裁量労働制
 ③企画業務型裁量労働制

このうち、①は事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難な業務です。例えば、一日中、外で業務に従事している場合であっても、同行メンバーの中に労働時間の管理をする人がいたり、携帯電話などによって随時指示を受けながら働いている場合は対象外となりますので、現実に適用される例はそれほど多くはありません。
 
 
 
 
 
 ②の「専門業務型」は、使用者の指揮命令で業務遂行が困難とされる高度な専門性を要する業務に限定して適用することができます。具体的には、以下の19職種です。

 (1)新商品・新技術の研究開発、人文科学・自然科学に関する研究業
 (2)情報処理システムの分析・設計業務
 (3)新聞・出版事業における記事の取材・編集業務、放送制作の取材・編集業務
 (4)衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案業務
 (5)放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー・ディレクター業務
 (6)コピーライター業務
 (7)システムコンサルタント業務
 (8)インテリアコーディネーター業務
 (9)ゲーム用ソフトウェアの創作業務
 (10)証券アナリスト業務
 (11)金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発業務
 (12)大学教授研究の業務
 (13)公認会計士業務
 (14)弁護士業務
 (15)建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)業務
 (16)不動産鑑定士業務
 (17)弁理士業務
 (18)税理士業務
 (19)中小企業診断士業務

 これらの業務のうち、業務の遂行の手段及び時間配分の決定などを具体的に指示することが困難な業務に就かせた場合は、あらかじめ労使協定を締結することにより、その協定で定めた時間労働したものとみなされることになります。今の法律では、上記の職種以外での「専門業務型」はいっさい認められていません。
 
 
 
 
 
 ③の「企画業務型」は、事業運営の重要な決定が行われる本社などにおける、企画、立案、調査・分析などの業務を担う労働者を対象とした制度です。
 事業運営の中枢を担う企画、立案、調査及び分析業務などに従事しており、かつ業務の性質上、大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があり、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関して具体的な指示を行わない業務であることが要件とされています。
具体的には、以下の事業場が対象となります。

 (1)本社・本店などである事業場
 (2)事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行われる事業場
 (3)本社等の具体的な指示を受けず、独自に事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場

 「企画業務型」は「専門業務型」とは異なり、労使委員会の決議(専門業務型は「労使協定」)がなければ適用することができません。
対象業務に従事している労働者であっても個別に対象者であるかどうかを判断するため、対象労働者になるために必要な経験年数、資格等の具体的な対象労働者の範囲を定める必要があります。現実的には対象者はかなり少ない制度となっています。
 
 
 
 
 今の制度を「裁量労働制」は以上のような概要ですが、これが今後どのように改正されるのでしょうか? 参考までに、昨年の臨時国会での「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」を以下に紹介します。

 五 企画業務型裁量労働制

 1 対象業務に次の業務を追加すること。
 (一)事業の運営に関する事項について繰り返し、企画、立案、調査及び分析を主として行うとともに、これらの成果を活用し、当該事業の運営に関する事項の実施状況の把握及び評価を行う業務
 (二)法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析を主として行うとともに、これらの成果を活用し、当該顧客に対して販売又は提供する商品又は役務を専ら当該顧客のために開発し、当該顧客に提案する業務
(主として商品の販売又は役務の提供を行う事業場において当該業務を行う場合を除く。)

 2 対象業務に従事する労働者は、対象業務を適切に遂行するために必要なものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する知識、経験等を有するものに限る
ものとすること。

 この法律案要綱によると、「企画業務型」の対象業務の拡大には、かなり厳格な要件が付けられています。「これらの成果を活用し、当該顧客に対して販売又は提供する商品又は役務を専ら当該顧客のために開発し、当該顧客に提案する業務」であり、なおかつ「象業務を適切に遂行するために必要なものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する知識、経験等を有するものに限る」ということですから、相当範囲は狭いです。

 法人向けの「B to B」の業務に限られ、なおかつ新入社員や中途採用であっても相当の知識や経験などを有する人以外は対象とはならないとされていますから、一般的な販売員や個人客向けの営業マンは対象外です。法人営業であっても新商品開発のための企画立案等を行い、法人顧客のニーズに応じた課題解決型商品の開発を要するような業務が該当し、いわゆるソリューション営業などが典型的なケースということになります。

国会の状況が流動的であり、働き方関連法案の行方も不透明となっていますが、これから数年の労働法全般の改正の流れは変わらないと思いますので、ぜひこの機会に労働時間などの基本事項を今いちど復習し、自社における取り組みを確認しておきたいものです。